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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二部 第十一章 ドゥローラへの裁き

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御者の忠告

 エルフィーは体の震えを覚えた。


 別に、敵意を感じたとかではない。だが、相手の声があまりにも冷たすぎたのだ。


 とはいえ、相手にも無闇にトラブルを起こしそうな様子はない。エルフィーは雑念を振り払うように咳払いをし、口を開いた。


「特に用があるわけやなか。たまたま仕事で近くに来たけん、噂に聞く惨状を覗きに来ただけばい」

「惨状、か…この国で何が起きてるのか、君は知ってるのか?」

「まあ、噂になってるくらいの話やったら」


 エルフィーはあっけらかんと答えると、相手の男は少し眉を寄せた。不思議に思いながら見つめていると、御者はさらに言葉を投げてきた。


「観光目的でないならそれでいいが…悪いことは言わない。すぐに帰れ」

「元からそんつもりだったばってん…そげんまずかことが起きとーと?」


 エルフィーが尋ねると、御者は周囲を見回した。まるで、これから内緒話でもするかのように、周りを警戒している。


「この国には、もうまともな人間は残っていない。兵士も、研究者も、ソロモニア以外の魔術師も、そして権力者も。…皆、レボルタを見捨てて、国外へ出ていってしまった」

「あ、そげん一気に出ていったと?」

「残っているのは、国外へ逃げるだけの蓄えがない貧乏人と、商品として入荷されていた奴隷だけだ」


 それを言われ、先程からちらほら見かける人外の奴隷達の顔が、脳裏をよぎる。大人ももちろんいたのだが、大半は子供だった。


 ーーー国の繁華街がこの有様では、ドゥローラの保護は期待できないだろう。そんなことを考えていると、御者の言葉が追加で続けられた。


「私もとある貴族に仕える身なのでな。最後の主の私物をもって、これから国を出る。…直に、この国は空洞化するだろう。ここで何か商いを始めるつもりなら、止めておくんだな」

「…ご忠告ありがとう。元からそんな気は一ミリもなかけん、大丈夫よ」

「だろうな。あのレボルタが、エルフを相手にそんな権利を認めるとは思えない」


 そこまで話すと、御者は再び周囲を見る。

 余程、周りが気になるのだろうか。


「…もしかして、聞いちゃまずかったやつ?」

「いや、そういうわけではない。だが、残らざるを得ない国民に迂闊に聞かせて、無用なパニックを誘発するのは、不本意なだけだ」

「そう…」

「だが、その国民ももうわずかしかいない。近いうちにドゥローラという国そのものがなくなるだろう」


 御者はそこまで言うと、エルフィーから視線を外した。


 ーーー話はここまで、ということか。エルフィーは馬車が通るのに邪魔にならないよう、馬車の前から移動した。


「先ほども言った通り、なるだけ早く帰れ。こんな国に、もはや長居は無用だ」

「分かっとる」

「じゃあな」


 御者はそれだけ言うと、再び馬車を走らせる。かなりのスピードで繁華街を駆け抜けている。

 馬に引かせているワゴンの中には、前からは見えなかったのだが 、確かに隙間から財宝のようなものも見える。


 ーーー端から見たら、火事場泥棒に見えなくもない。だが、わざわざ馬車を準備してまでやるとは考えにくいため、その考えはすぐに頭から消えた。


「…ホントに、長居は無用みたいやね」


 エルフィーは馬車を見送った後、自分も帰路へとつくことにし、踵を返すのだった。

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