崩壊した繁華街
一方その頃。
城壁の外にある、ドゥローラの繁華街。
クロニオス達が来た時は、栄えていた。露店は営業していたし、目玉商品の宣伝をしている店員が、大声で客寄せをしている、普通の繁華街であった。
だが、今は違う。店には商品も人員もおらず、奴隷を捕らえていた檻もすでに破壊されて中身は空になっている。
綺麗に舗装されていた道には、ゴミが散乱しており、もはやゴーストタウンのような雰囲気すらあった。
風に乗って、商品棚からリンゴが一つ落ちる。リンゴは転がっていき、一人の女性の靴に当たる。
橙黄色の魔女っ子衣装を着て、メガネをかけている、子供と見間違えるほどに小柄なエルフの女性。その女性、エルフィーはそのリンゴを拾いながら、辺りを見回した。
「おーおー…こりゃ予想以上に酷か」
エルフィーはラウラの同僚で、エストラの講師でもあるのと同時に、薬売りとしても働いている。薬売りとしての取引が近くの国であったため、偵察も兼ねてついでに寄ってみただけだった。
目の前に広がる光景に、驚きを禁じ得ない。つい二週間程前まで栄えていた繁華街だとは思えない。同族のエルフが普通に奴隷として販売されていたので、エルフとしては心地よい場所でもなかったが、ここまで寂れてしまうと、逆に同情心がわいてくる。
手に持ったリンゴを持て余していると、後ろから視線を感じる。振り向くと、エルフィーの持つリンゴを、物欲しそうに見つめているネズミの獣人の男の子がいた。
全身土埃まみれで、痩せこけている。まともな服も着ていないことから、どこぞで脱走した奴隷だろうか。
本来ならば、保護案件だ。だがあいにく、今のエルフィーにそんなことをする財力も権限もない。
「…何ね?このリンゴが欲しかとね?」
少年にそう聞くと、カクカクと頷いた。
持っていても、持て余すだけだ。ならばいっそ、渡してしまおう。万引きになるかもしれないが、それを咎める店員も、もはやいない。
「ほれ。あんまいっぺんに食うなよ」
エルフィーはそのまま、リンゴを少年に手渡した。少年はリンゴを受け取ると、お礼を言わず、脱兎のごとくエルフィーから逃げるように姿を消した。
エルフィーはその後ろ姿を、しばらく見つめていた。彼も、ドゥローラという国の、レボルタという国王の政治の被害者なのだろうか。
その後、エルフィーは歩き始めた。
深くまで探るつもりはない。少し探索したら、帰るつもりだ。
「国一番の繁華街がこのザマやと…もう商売相手としちゃあ成り立たんばい…」
しかしながら、寂れっぷりは恐ろしい。数十年かけてゴーストタウンと化すならばまだ分かる。しかし、このドゥローラという国は、二週間程度でここまで寂れてしまったのだ。
どこを見渡しても、店は営業していないし、時々見かける人影も、露店で売られていたと思われる奴隷が彷徨っているだけだった。
ーーー国として、奴隷を保護する政策が打ち出されるのだろうか。しかし、自国民は自国で管理すべきというレボルタの主張があるゆえ、その政策を実施するにしても、レボルタが退陣してからになるだろう。
そんなことを考えながらのんびり歩いていると、側道から馬車が飛び出してきた。
「ん?…止まれ!!誰かいるぞ!!」
馬車の御者は、慌てて馬を停めた。馬はエルフィーに追突しないギリギリのところで、ようやく止まった。
権力者特有の、派手な馬車だ。国内でそれなりの地位をもってる人物のものだろうか。エルフィーがしばらく騎手を見つめていると、御者の男が口を開いた。
「…君、この国の住人ではないな。こんな国に、何か用か?」
その声は冷静、というより冷徹な声色だった。




