最後の一押し
「…逆に、こちらとしてもあんたに説明を求めたい」
黙り込んでしまったレボルタを相手に、サトゥニアが口を開く。
本来なら、このような形で本人に直接ぶつけるつもりはなかった。だが、レボルタは自分を棚に上げ、さも自分のみが被害者であるかのような話し方をしているため、サトゥニアとしても我慢ならない。
「先程から話してる通り、ソロモニアは我々の使者を待ち伏せた上で罠にかけ、捕らえようとした。手紙の内容をソロモニアへ共有した事自体を咎めるつもりはないが、その上でなぜ、そのような行動を容認した?」
ーーーどうしても、魔王としてはそこが許せないことだった。
通常、他所から使者を送るという事前通告があれば、その使者に対し、厚くもてなすとまでは言わずとも、無礼のないように振る舞わせるのがセオリーのはずだ。
だが、ソロモニアは違った。逆に捕らえて、自分達の糧としようとしてきた。しかもクロニオスの報告や、ヨルゼフからの情報共有を総合して判断すると、そのことを特に咎めている様子もないとのことだ。
「私の質問に先に答えろ!!貴様らの方が下なんだぞ!!」
「どちらが上かは関係ない。そちらが我々の行った無力化行為を責め立ててくるならば、我々にそう『させた』ことに関する説明を求めてるだけだ」
「…悪魔風情が…!!」
逆ギレもいいところだ。だが、サトゥニアは気にしなかった。
建設的な話し合いなど、この男を相手にしてる限りは不可能だ。
しかしそれでも、ここで何か理論的に言い返してくれば、まだこちらとの議論になるかもしれない。しかし、レボルタの口から、言葉が紡がれることはなかった。
ーーーその様子に、イライラが限界を迎えたのか、クロニオスが思い切り机をぶん殴った。
「…何とか言ったらどうだ!!テメェはそれでも一国の代表者か!!」
ビリビリと、空間が震える音がした。クロニオス怒声は、もはや恫喝にも聞こえるほどだ。
だが、今回ばかりはクロニオスを止めるつもりはない。自分とて、レボルタの態度を肯定的には受け止められていない。王だと名乗るならば、レボルタのこの振る舞いは、ハッキリ言って失格だ。
ーーー対面でなくて、よかった。もし対面していたら、クロニオスがレボルタを半殺しにしていたかもしれない。
実際、クロニオスはまだ怒鳴り足りないのか、拳を震わせていたし、鼻息も荒い。クロニオスが外交の際に、ここまで声を張り上げることはあまりなかった。
ここまで言ったのだから、せめて何か多少なりともまともな返答があるだろうと期待していた。しかし、画面の向こう側のレボルタは、大きく舌打ちをした。
「…チッ…。所詮は悪魔、高尚な人間様の理論が理解できるはずもねぇか…」
「…何だと?」
レボルタの暴論に、さすがのサトゥニアも眉をひそめる。
人間以外の種族を見下しているのは分かっていたし、それを隠そうともしていないことは知っていた。その認識を、この期に及んで修正しないのか。
「クズとは最初から話し合いにもならねぇってことが、よーく分かった。やはり、テメェらは被支配側に過ぎねぇ!!絶対屈服させてやる…!!」
それだけ言うと、レボルタは一方的に通話を切ってきた。
ーーー言い方だけ切り取るなら、真正面からの宣戦布告ともとれる。だが、後ろ盾を失い、国が滅びかけてるというのにそんな真似をするとは。
半ば、自棄になっているのかもしれない。
「…やはり、ダメだな。あの男は」
「えぇ。話を聞いてるだけでも、王の器ではありませんでしたね」
サトゥニアが通話の切れた画面を見つめながらぼやくと、アモディエナがため息をつきながら片付けを始めた。
クロニオスは未だに、先ほどの発言の衝撃が引いてないのか、もはや怒ることさえ忘れて呆然としている。
「…おい、クロニオス」
サトゥニアが静かに呼びかけるも、反応がない。サトゥニアは自身のこめかみをおさえながらも、乱暴にクロニオスの背中をぶっ叩いた。
「ってぇ!?何しやがる!?」
「いつまでボケっとしてる。呼んでんだろうが、バカ」
この男が相手なら、無遠慮にいっていい分、いくらか気楽だ。
とはいえ、クロニオスには無理言って来てもらっているのだ。用事が済んだのなら、本来の休暇に戻ってもらう必要がある。
「さっさと戻れ。あとは俺らの領分だ。ペルセのもとに行け」
「あ?…だが、後処理が…」
「魔王としての命令だ。行け」
ーーー従兄弟でもあるクロニオス相手に、この言い方をすることは滅多にない。だが、今回クロニオスは娘との時間を潰してまで来てくれたのだ。
後処理は自分とアモディエナがいれば、十分にできる。クロニオスの存在が邪魔というわけでは決してないのだが、今回ばかりは手伝わせる気など毛頭ない。
魔王命令、とまで言われた以上、クロニオスは逆らうことができない。渋々立ち上がり、玉座を出ていくのだった。




