ペルセの教育布陣の強さ
とある朝。
魔界の王宮にある、鍛錬室。そこで、黒い道着を着たペルセが、母デメナと共に魔力の鍛錬をしていた。
「んーしょっ…」
「上手いですよ、ペルセさん」
自身の掌に練り上げた白色魔力を、一部だけ千切る。簡単な操作に見えて、かなり微細な魔力コントロールを要求される代物だ。
上手に制御できないと、千切った瞬間に魔力が暴発したり、必要以上取ったりしてしまい、魔力過剰となる。そうなっては、意味がない。
十年間、デメナに技巧を仕込まれ続けたペルセであっても、集中すればできるのだが、デメナのように無意識で行うことはできなかった。
「…お母さん、これ無意識でやってるんだよね?どうやって…」
「たくさんやって、慣れるしかありませんよ。あなたは当然、まだ慣れてるわけではないので、意識しないとできないのは当然です」
「…はーい」
ペルセはデメナに諭されるようにそう言われる。デメナの言ってることへの反論もできず、ペルセは少し不満ながらも大人しく返事をするしかなかった。
ーーーそんな二人を、鍛錬場内の、休息スペースにあるベンチから眺めている一組の姉妹がいた。
「あんな緻密な操作を、子供に教えてんの…!?」
「えぇ。デメナ様のご息女ですからね」
ヴァーレアとイアノ。ゴエティフス家の姉妹だった。
イアノだけなら、鍛錬の送迎としても来てくれるし、何より鍛錬の相手になってくれることもあったため、ペルセにとって緊張する相手ではない。
しかし、エストラでは先生であったヴァーレアに見られてるというのは、何だか少し背筋が伸びる気がする。
ヴァーレアは鍛錬を見て驚いているようだ。何にそんなに驚いているのかは、ペルセには分からなかったが。
「少し、休憩にしましょうか。お腹もすきましたでしょう?」
「お母さんのお弁当!!」
「ウフフ、慌てないでくださいね。弁当は逃げませんから」
ペルセはデメナにそう言われ、練り上げていた魔力を体内へと戻した。そして、母と手を繋ぎ、歩き始めた。
鍛錬に一区切りつけたデメナとペルセは、イアノ達のいる休息スペースへ向かっていく。その様子を見て、イアノとヴァーレアも、二人用のスペースを空けるために、場所を少し移動した。
デメナは適当なスペースに腰掛けると、持参していた弁当箱を開く。まるで、ピクニックにでも来たかのような弁当箱の中には、ペルセが大好きな母親の手料理がこれでもかと入っていた。
「お母さんの手料理だ!いただきまーす!」
「こらこら、落ち着きなさいな。イアノさんもヴァーレアさんも、どうぞ」
テンションが突き破らんばかりに上げているペルセを一瞥しながらも、デメナはイアノたちも招待する。イアノは特に抵抗なくデメナの隣に、ヴァーレアはオロオロしながらもペルセの隣に座った。
「あのぅ…ペルセ様ぁ…」
「ん?なんですか?」
「あの鍛錬、デメナ様とずっとされてるんですか…?」
しばらくして、すでに母の手料理を嬉しそうに頬張るペルセに、ヴァーレアが恐る恐る尋ねてきた。
そんなに、おかしな鍛錬なのだろうか。ペルセは首を傾げながらも、普通に答えることにした。
「十年近くやってますよ?お母さんやイアノお姉ちゃんと」
「十年…」
「…そんなに変ですかね?」
ヴァーレアは自身の眼の前にいるイアノに視線を向けた。当のイアノは、デメナと談笑しており、特にこちらの話してることに耳を傾けてる様子はない。
ペルセは首をひねりながら、ヴァーレアの言葉を待った。
「変って言いますか…人間界の感覚だと、あんな精密制御って、魔術師としてベテランになってから初めて意識するくらいのものですよ?小さい頃から鍛錬してきて、十五年目くらいにやるような」
「…そうなんですか?」
ヴァーレアは控えめながらも、少し引き気味にそう言った。
そんなことを言われても、人間界の感覚など、ペルセには分からない。だが、ヴァーレアの表情からしても、特に嘘をついてるようにも見えない。
「私、そんな大した教育は受けられてないと思うんですが…」
「えぇ!?」
ペルセにしてみれば、自分の父母とイアノ、アモディエナ辺りが鍛錬に関わることが多い。それほど大した身内でもないようにしか見えない。
しかし、ヴァーレアの反応は、本気の驚きだった。




