手紙の確認
手紙を机の上に置き、ヴァーレアはしばらく思考を巡らせる。
魔王への手紙。普通なら、見ることも叶わない手紙だろう。そんなものを、政治に関わっていない自分が読んでもいいものか。
ーーーどうしても、二の足を踏んでしまう。
「…読まないのですか?」
「読むよ!?読むけど、これ元々魔王様への書簡だったんだからね!?」
しばらく経っても手紙を開かないヴァーレアに痺れを切らしたのか、鏡の中からラウラが話しかけてくる。
ラウラ自身、元々の気質なのか、そういった権力関係への執着や気遣いが薄い傾向がある。敬意を払わないわけではないが、過剰にかしこまらないのだ。
そんなラウラから見ると、魔王への書簡だからと言って躊躇ってるヴァーレアは、まどろっこしく見えてしまうのだろう。
「早く読みましょう。国王陛下からの情報なら、信憑性は高いです」
「分かってるよぉ…あまり急かさないでぇ…」
若干情けない声が出てしまう。ヴァーレアは恐る恐る、手紙の封を切り、中身を取り出した。
丁寧に三つ折りにされている。しかしながら、開かれた痕跡はある。やはり、確かに魔王もこの中身を読んでいる。
震える手で、紙を開いて内容を読み始めた。
「…うわぁ…」
手紙を読んで、ヴァーレアはドン引きしている。
元々どうしようもない国王であるとは思っていた。だが、ソロモニアの保持する悪魔という絶対的優位性を失ってもなお、レボルタはソロモニアを手放していない、ということが記されている。
ーーー否。元々いた国家研究者達がエスカンに大量に流出している今、レボルタとしてはソロモニアに頼るしかないはずだ。特に、あのプライドだけ高いレボルタが、己の失敗を素直に認めるはずがない。
「…ここまで酷いことになっているとは…」
「ねー。魔界の介入って、ソロモニアの持ってた悪魔の契約破棄と返還だけだったはずなんだけどね…」
「歴史上、珍しいケースですが…こうなってしまっては…」
ラウラはそこまで言うと、言葉に詰まった。だが、大体何を言おうとしていたかの予想はついた。
歴史的に見ても、ドゥローラはもはや末期の国だ。もはや坂道を転がるように、急速に崩壊の道を歩んでいるように見える。
ヨルゼフの手紙は、それだけの情報を裏付けている。しかも、手紙の文体を見ると、エスカンとしてももう助けるつもりがないようで、ドゥローラで混乱が起きることを確実視し、それに対する注意喚起の側面が強い。
「…ヨルゼフ国王まで、見限っちゃったか…」
「まぁ…ずっと見下されてましたし、もっと早く手を切ってもよかったとは思いますが」
「地理的な問題だろうねぇ…地続きの隣国だったし」
そう言いながら、二人揃って小さくため息をついた。
もう、救えない。手紙の中では断言されていないが、クーデターが起きても何らおかしくない状況だ。
「ソロモニアは微細な毒のように、数百年かけてドゥローラを腐らせましたね…」
「ランちゃん…」
「…数百年越しに、あの時ソロモニアが政治に関与することに反対した私の判断は間違えてなかった、と確認できましたよ」
鏡の中で、ラウラは頷いている。
ヴァーレアが誘拐される前、ラウラは当時のドゥローラの国王が、ソロモニアと関わることを唯一反対した。だが、多数決で通されてしまい、ラウラはソロモニアの一件に関わることはやめた。
当時、こんなことを予想していたわけではないだろう。だが、結果としてラウラの判断は正解となってしまった。
「…ソロモニアが滅んでほしいとは思ってたけど、ドゥローラという国までやられちゃうとはね…」
「レボルタがとんでもない失策を、いくつも行ったのが加速要因なのは間違いありません」
ヴァーレアが寂しそうに呟くと、ラウラはいつもの調子で淡々と原因分析をしていた。
ーーー今、自分達はとても楽しい。それだけでも十分だろう。
ヴァーレアは無言で、手紙を封筒へとしまった。




