触れてはならない記憶
ーーーあれから、数日の時が経った。
まだ、完全には治っていない。しかし、順調に治療は進んでいる。
日常生活くらいであれば、問題なく動けるくらいになっていた。
ーーー回復が早いことに関して、ハイーラは首を傾げていた。でも、昔から、頑丈さと治りの早さには、自信があった。
…まぁ、ここまでのひどい怪我は、初めてだったが。
マールの方も、大分良くなってきてるようだ。自分と同様、まだ治ってはいなさそうだが、本人はあまり気にしておらず、相変わらずのんびりしている。
「…あともうちょっとしたら、私も治るかな〜」
「あんたいつまでここに居座る気…?」
今日も、ハイーラの家で食事だ。相変わらず、お店で食べるものにも劣らない、美味しい食事だ。
食事の良い匂いが、部屋中に漂っている。
ハイーラはマールがずっと自分の家にいることに、少し不満げだ。
…まぁ、元々そんな長い間泊めるつもりはなかっただろうから、そりゃ不満にもなる。
「なに〜?私の家にペルセ連れて帰ればいいの〜?」
「…ぜーーーーーったい、ダメ!!あんたのあの汚い家じゃ、この子まともに育てられないわよ!」
「そういうことだよ〜」
「理由になってないわよ…」
相変わらずな二人のやり取りに、少し笑ってしまう。実際、ハイーラの家での暮らしを知った後だと、マールの暮らしがまともでないことは、ペルセにも分かった。
ハイーラに叩き込まれたテーブルマナーを、ぎこちなく守りつつ、食事を口に運ぶ。もう、食事マナーで注意されることも大分減った。
「…そういえば二人ってさ、昔からの知り合いなんだよね?」
ふと、気になったことを口にしてみた。
ペルセの声に、先程まで言い合っていた二人がこちらを見てくる。
「…えぇ、そうよ?」
「生まれも一緒だね〜。私も、元々アスティアノ…この町で生まれてるんだ〜。今はベリアスに住んでるけどね〜」
二人は一瞬、顔を動かすことなく、視線だけを合わせたように見えた。目だけで通じ合ったのだろうか。
「じゃあ、何でマールさんだけ、その、ベリアスに…?」
「ん〜…まぁ、色々あってね〜…」
追加で質問を投げてみると、マールは明らかに困ったような表情で、少し視線を泳がせた。ハイーラも、何も言わずに目を伏せている。
「…あ、それで思い出したんだけど〜」
マールは何か閃いたように、手を自分の胸の前でパンと叩き、ペルセに視線を向けた。
隣に座るハイーラは、露骨にホッとしたように息を吐いている。
「ペルセさ〜、ベリアス…あの、私の住んでる町で、何やってたの〜?」
「え…?」
逆に、質問し返されるとは思ってなかった。思わず、間の抜けた声を出してしまう。
なぜ、そんなことを聞くのだろう。
「…何って…?」
「ん〜…君と私が会う直前にさ、急激が乱れがあったんだけど〜。その時、君は何してたの〜?ってこと〜」
マールと出会う前…。記憶を必死に探るが、いまいち何をしてたかは思い出せない。日数が経ってしまったからなのか、かなり朧気だ。
思い出せるとするならーーー感情だ。
「…何か、店の奥に連れて行かれて、すごく怖いー!ってなったのは、覚えてる…」
「怖い?」
「うん…どこか、嫌なところに連れて行かれそうになってたような…。それで、気付いたら、店の壁が壊れてて…」
「ふ〜ん」
マールは、視線も合わせず、話に興味があるのか微妙な態度だ。一方のハイーラはそんなマールと真逆で、何も言わずに、ただペルセを見つめていた。
「なるほどね〜。あの時感じた魔力乱れは、それか〜」
「…ねぇ、ペルセちゃん。追加で質問、良い?」
納得しているマールを尻目に、ハイーラは変わらずペルセを真っ直ぐ見ながら、口を開いた。
一体、何を聞かれるのか。思わず少し、身構えた。
「ダスノムでは、何かあったの?」
「何か…?」
質問の意味が分からない。
先程のマールの質問は、マールが感じたことに対するものだった。しかし、ハイーラはダスノムを見ていない。
ーーー一体、どういうことだろうか。
ハイーラは変わらず、ペルセをじっと見つめてくる。
「大きな出来事…何か、なかった?」
ハイーラにそう言われ、ダスノムでの日常を振り返る。
ダスノムではいつも、ゴミの中から使えそうなものを探し、オーレン含めた複数人で共有していた。汚かったし、食事も質が悪かったが、皆でワイワイするのは、楽しかった。
しかし、ある時にーーー。
「…………ッ!?」
明らかな、引っ掛かり。それが、ペルセの傷を大きく開いてしまった。




