ヨルゼフの決断
電話の向こう側のレボルタは、黙りこくっていた。
もう、この対応をされるのは、何度目か分からない。
それでも、ヨルゼフは相手の言葉を待った。だが、しばらく待ってもレボルタは何も言わない。
最も都合の悪い事実ではあるだろう。だが、自分の非を認めなければ、ドゥローラという国そのものがなくなりかねない。
ーーーそう、思ったのだが。
「…俺は、間違っていない…!悪魔やサルごときに、屈するかよ…!!」
レボルタはそう啖呵を切ると、電話を一方的にガチャ切りしてきた。
通話の切れたツーツーという音が、受話器から空しく響く。ヨルゼフは耳に当てていた受話器を、しばらく見つめていた。
ーーーもう、あの国は長くない。あの男がトップに立っている限りは、だが。
「…やれやれ…」
ヨルゼフは静かにため息をついた。
あの男との付き合いも短くはない。確かにできた人間ではなかったし、賢しさのある王ではなかった。だがそれでも、ヨルゼフなりにきちんと王として向き合ってきたつもりだ。
だが、もうダメだ。ヨルゼフの見える範囲でドゥローラの国内情勢を観察した限り、国内の有力者、政府関係者さえも、レボルタを見限る時も、そう遠くはないだろう。
ヨルゼフはそう判断し、魔界やエスカンの周辺国に向けて、手紙を書くために筆をとる。
無論、ドゥローラという国を助けてほしい、なんていう命乞いのためではない。
「…もう、周知の事実かもしれないがな…」
サトゥニアからの手紙が送られてきて、魔界の介入が確定的になった際に、周辺国へドゥローラと魔界との間のトラブルの内容について、念のため共有していた。それゆえ、レボルタやソロモニアが、魔界の悪魔に対して何をしていたのかは、すでに周辺国もある程度は知っている。
だが、それに加えて、今回のドゥローラ国家研究者の大量流出だ。受け入れているエスカンとしても特に隠してない以上、国際的なニュースになることも時間の問題だろう。
もしそうなった場合、今までとは比較にならない混乱が起こると予測される。それも、ドゥローラ国内では留まらない、大きな混乱だ。
エスカンではすでに備えをするよう、ドゥローラとやり取りしている企業等に呼びかけているが、他はどうか分からない。
ーーーヨルゼフの筆は、全く止まらない。共有すべきことを、全て手紙にしたためる。そしてそれをコピー機で何部か複製し、それぞれを封筒に入れた。
そして、封筒にそれぞれの住所を書く。ドゥローラと国境を接する国、そしてその周辺国の外交担当部署の住所だ。
差出人は、外交担当の名前ではなく、自分の名前とする。これは、国としての公式なものではなく、あくまで王個人としての情報共有だ。
「…また、外交部からは怒られるかもしれないがな…」
苦笑いしながら、そう呟く。「陛下、また勝手なことを…!」と言ってくる、外交担当部署の役員達の顔が浮かんできた。
しかし、それでも止めるつもりはない。ヨルゼフは手紙を郵送するべく、郵便局へと向かうのだった。




