ドゥローラからのクレーム
さらに数日後の昼下がり、人間界のエスカン王国にて。
執務室にて、猿の獣人であるヨルゼフ・エスカンは、今日も王としての執務に励んでいた。
積み上がった書類の処理、国内の要人との面会、そして国家運営の最終判断。今日も今日とて、山のような業務があった。
しかも最近は、ドゥローラから逃げてきたという元国家研究者達の受け入れ手続き依頼が次々に舞い込んでくる。
国としては、エスカンの技術発展に貢献してくれそうな人間が来てくれるのはありがたい。ありがたいのだが、こうもいっぺんに来られると、キャパオーバーになりそうだ。
すると、執務室の電話がけたたましく鳴り響く。電話が来ることそのものは珍しくないので、ヨルゼフは特に驚きもしない。
ヨルゼフは躊躇いなく、電話を取った。
「もしもし」
「陛下。お時間大丈夫でしょうか?」
「どうした?」
電話の相手は、エスカン王国の外交官の一人だった。まだ比較的若い男だが、魔界との会合のセッティングにも精力的に取り組んでくれた、未来ある若手だ。
そんな男の声色は、若干焦りが見えている。一体、何があったのだろうか。ヨルゼフは冷静さを失わないようにしつつ、次の言葉を待った。
「隣国のレボルタ国王から、直接のお電話が入っております。お繋ぎいたしますか?」
その言葉を聞き、ヨルゼフはこめかみを抑えながら、大きくため息をついた。
連絡が来ることは予想していた。あの男のことだ、外交官にも無茶苦茶を言っているのかもしれない。
ーーー面倒だが、相手せざるを得まい。
「…繋いでくれ」
「かしこまりました」
そう言うと、外交官側からの通話が一度途絶える。
そして、ものの数秒で、再び電話が鳴り響いた。ヨルゼフはその電話を取り、自分の耳へと慎重に当てた。
「はい、エスカン国王、ヨルゼフ・エスカーーー」
「おいサル!!貴様、やってくれたな!!」
ヨルゼフが名乗る前に、レボルタが電話口で、大声で叫ぶ。あまりの大声に、電話越しの声は、音割れしていた。
一瞬、大声に驚いて耳を離したが、すぐに冷静になり、再び受話器を耳へと当てた。
「…一体、何の話をされているのでしょうか?」
「とぼけるんじゃねぇ…!魔界の連中を送り込んだことと、今回うちらの研究者を奪い取ったことだ!!」
ーーーやはり、その二つか。予想通り過ぎて、清々しい。
電話口のレボルタに聞こえないように、小さくため息をついた。
「全部、テメェの差し金だろうが!!サル風情で、人間に逆らうなど、自然の摂理にも反する愚行なのだぞ!!」
「…やれやれ。一つずつ、誤解を解いていく必要がありそうですね」
ヨルゼフは特に取り乱すこともなく、冷静に応対する。対照的に、レボルタは電話越しでもわかるほどに、怒りのボルテージが上がっていた。
この男相手に、感情論は不要だ。
ヨルゼフは深呼吸を行い、ゆっくりと口を開いた。




