ドゥローラ崩壊の始まり
イアノの言葉に、ヴァーレアの手が止まった。
数日前、ソロモニアの支配下にあった悪魔達を、クロニオス達が魔界へと送り返した。
ドゥローラが周囲国に対する軍事的な優位を保っていた最大の要因が、完膚なきまでに破壊されたと聞いている。
ーーーかつての自分を、限界近くまで追い込んだ組織。そして、今もなお自分とラウラを危険に晒し続けている国。
「…どんな動きがあったの?」
だからこそ、気になってしまう。まだ完食していないが、ヴァーレアはスプーンを机に置き、話を聞くことにした。
「まず、ソロモニアの連中、本当にソロモニア以外の国家研究者達を、追い出していました」
「あ、うん。そうらしいね。ボクも、エストラの先生達から聞いてる。ここ数日で、ランちゃんと同じ元ドゥローラの国家研究者だった人間が、大量に流入してるらしいよ」
「…ご存知でしたか」
「そのくらいはね」
研究者の追放、及びソロモニアへの研究設備の貸与。いや、レボルタのことだから、もはや譲渡に近いのだろう。それがあったことそのものは、エルフィーを筆頭としたエストラの講師たちからの連絡で知った。
エスカンという国のことだ、正規での手続きさえ踏めば、特に入国して転居することそのものは不可能ではないだろう。悪魔である自分をその身に宿していたラウラでさえ、手続きを踏めば国民として受け入れられたのだから。
「そんな状況での、先日の一件。クロニオス様がソロモニアに囚われていた悪魔を解放し、悪魔の魔力を使っての軍事行動や研究等をできなくされましたわね」
「うん。それ、相当ヤバいだろうね」
ドゥローラという国の政治についても、ヴァーレアは隣国住まいであるため、それなりに情報が入ってくる。また、エルフィーのように、エストラ講師内にもドゥローラ相手に商いをしている者も存在する。
以前、職員室でやっていた、ラウラとエルフィーのやり取りを思い出した。
「エルフィー先生、この間ドゥローラの政府関係者に薬を届けに行ったそうですね。どうだったんですか?」
「あの国、人間以外のモンば見下しとる。それ自体は知っとったばってん、ありゃ差別意識として根差しとるもんよ」
「やはり…」
「けど、ありゃどこかで壊れるばい」
「と言いますと?」
「本人の意思ではどうにもできない特定の要素を持ってる者を、政治として優遇するのは、起爆寸前の爆弾を抱えるようなもんよ。何かのきっかけで、爆発するやろね」
当時のエルフィーは、本当に雑談のようなテンションで話をしていた。それゆえ、本人も深刻に捉えていなかったかもしれない。
しかし、今ではその起爆のキッカケは与えられたと言っても過言ではないだろう。
ソロモニアが崩壊しただけではなく、レボルタに職場を取り上げられた国家研究者が、ドゥローラから逃げ出した。それはすなわち、軍事基盤が崩壊し、さらには既存兵器の研究・開発能力もガタ落ちし、発展はおろか現状維持すらも危うくなる、ということだ。
「国民に知られてしまったら、レボルタの支持そのものが危うくなるだろうね」
「国民には分かりませんが、周辺国にはもうすでに漏れておりますわ」
「…マジ?」
確かに、ソロモニアの大幅な弱体化は、隠し通せるような事象ではない。だがそれでも、軍事的にも関わるものである以上、数日で広まるような話でもないはずだ。
「どうしてこんなに早く…?」
「元々、ドゥローラがエスカンとの話し合いに応じていないことは、周辺国も知っていました。ところが、我々がソロモニアに囚われた悪魔の救出作戦を実施する際、ヨルゼフ陛下は周辺国にも通達を出したそうなのです。『魔界側がこういう事情で、限定的な介入することになった。もしドゥローラ側がアナタ方に何か言ってきたら、私にご一報ください』という旨の内容だったとのことですわ」
「ヨルゼフ国王…」
ヨルゼフとしては、自分が仲介したことでドゥローラと魔界が揉めるため、周りに先に事情説明と謝罪をしておいた、くらいのつもりなのだろう。
だがそれが、結果として周辺国にドゥローラの大幅な弱体化を知られるきっかけとなってしまったらしい。
それでも、ドゥローラには同情する気はない。自業自得だ。




