ゴエティフス家姉妹の穏やかな時間
数日後の夜。
魔界にある、ゴエティフス家の屋敷。巨大な屋敷の中のエントランスを、何人もの使用人たちが掃除等で動き回っている。
派手さはない。むしろ、地味な色合いの屋敷だ。しかし、良い素材を使ってるがゆえの高級感が、何も装飾がなくとも上品な雰囲気を醸し出す。
そんな屋敷の食堂にて、ゴエティフス家の次女でもあるヴァーレアは食事をとっていた。
「お嬢様。こちら、お下げいたします」
「ありがと。いつも助かるよ」
ヴァーレアは器用にナイフとフォークを使いながら、肉を切り分けている。そのテーブルマナーは、軽そうな性格の言葉遣いとは裏腹に、完璧であった。
普段ならラウラが出てることがほとんどなのだが、あまりの屋敷の豪勢さに落ち着かない、魔界ならばヴァーレアの方が慣れているという理由で、魔界ではラウラの肉体をヴァーレアが借りてる状態が常となっていた。
もちろん、最初は驚かれた。髪や瞳の色、目付きに自分の要素があるとはいえ、基本的にはラウラの肉体なのだから。だが、自分が本当に、かつて消息不明になっていたヴァーレアであることを、自分だけでなく姉のイアノまで保証してくれたので、使用人たちも信じてくれた。
数日も経てば、すっかりぎこちなさもなくなり、使用人たちも受け入れてくれたようだ。イアノに向ける態度を、そのまま自分に向けてくるようになっている。
「こちら、デザートになります。追加でどうぞ」
「ありがと〜」
魔界の果物をふんだんに使った、フルーツの盛り合わせ。量こそデザートらしく控えめだが、卓越したシェフ達の腕により、スプーンを止められないほど美味しい。
人間界でラウラが好むパフェやスイーツも、甘くて嫌いではないのだが、やはりヴァーレアにとっては、数百年経っても、このくらいの甘さのデザートのほうが好きだった。
料理に舌鼓を打っていると、食堂にイアノが入ってきた。どうやら仕事から帰ってきたらしく、オフィシャル用の黒いドレス姿だ。
「あ、姉様ー。ご飯先に食べてるよー」
「そのようですわね」
ヴァーレアはスプーンを持ったまま、イアノに向けて手を振る。イアノはその様子を見て、穏やかに笑っている。
「お嬢様。食事もお風呂もご用意できておりますが」
「食事でお願いできますか?」
「かしこまりました。すぐ手配いたします」
使用人はイアノに確認を取ると、即座に動き始めた。イアノは着替えることもなく、そのままヴァーレアの隣に座った。
ヴァーレアが魔界に避難してきてからというもの、仕事を終えて戻ってきた姉とこうやって夕食をとるのが日課だった。
「そういえば、父様や母様は?今日も泊まり込み?」
「えぇ。アモディエナ様の部署の所属ですし、今大忙しのようですわ。ペルセちゃんの留学を何としても再開させる、いつでもエスカンに介入できる状態にしておくってアモディエナ様が張り切ってるようで…」
両親は今日も帰ってこれない。
元々魔界政治運営の実務面を担うアモディエナの部署だが、今は特に忙しいらしい。
しかし、無理もない。クロニオスとデメナは、娘のペルセのフォローのために時短勤務をしているし、サブリナは元々そういった仕事をしない。アモディエナの部署にしわ寄せがいくのも、ある意味必然だ。
「…ペルセ様のことになると、上層部は皆見境なくすよね…」
「最高幹部の半分が身内なんですのよ?」
「そうだった…」
そこに加えて、ペルセの件でアモディエナも激怒しており、ペルセのために自ら馬車馬の如く動いているのだ。
元々能力が高く、重用されている父と母だったが、今は特に忙しい時期だろう。落ち着いたらまた、親子で話ができるかもしれない。
「お嬢様、失礼します。本日のメインディッシュでございます」
「ありがとうございます」
すると、使用人が大きめのステーキをイアノの前に置く。先ほど、自分も食べていたステーキだ。
イアノは使用人の背中に一礼すると、ヴァーレア以上の上品なテーブルマナーで、肉を器用に切り分けていた。
「…そういえば、ドゥローラの方で、動きがあったらしいですわ」
お肉を口に含みながら、イアノはつぶやくようにそう言った。




