参謀の警戒
魔界に戻ってきたクロニオス一行は、クロニオス以外はそれぞれ自分の持ち場へと戻っていった。
特にデメナについては、寂しがってるであろう娘のペルセの元へと向かわせた。
クロニオスは王宮の応接間にて、魔王であるサトゥニアに、今回の成果を報告していた。
「…そうか。ご苦労だった」
報告を聞いたサトゥニアは、玉座に座ったまま、淡々と返事をした。少し離れた円卓の席には、アモディエナも座っている。
アモディエナとサトゥニアの眼前には、書類の束がある。相変わらず、書類仕事に追われてるようだ。
「…下がっていいぞ。ペルセの元に帰ってやれ」
「あぁ…分かった」
クロニオスはそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。
だが、一点気になる点があった。それを伝えるために、歩みを止めた。
「…どうした?」
「連中の動きで気になる点があってな。まだ当面、ドゥローラとソロモニアは荒れると思っている」
「どういうことだ?」
サトゥニアとアモディエナが、身を乗り出した。クロニオスは振り向くことなく、言葉を続けた。
「これはたまたま聞いただけだから、真偽は分からんが…。レボルタの野郎、研究者を追い出してまでソロモニアに研究室を託していたらしい」
「ほう」
「地下にも魔力の搾取設備があったが、破壊した。俺らが持ち帰ってきたのは、そこに置いた、無力化済の契約書類だけだ」
クロニオスはそう言うと、机の上に雑に置いた契約書類を指す。唯一の物品として持ち帰ってきた代物であり、他のものは何も持ち出していない。
サトゥニアとアモディエナはそれを一瞥はしたが、すぐにクロニオスへと視線を戻した。
「…もしも研究者を追い出して、ソロモニアにすべての研究室を託したことが事実であるとするならば…今回の一件で力を失ったソロモニアを、レボルタが見限る可能性もあるだろう」
クロニオスは淡々と自分の予測を告げる。
実際、その先も頭の中でシミュレートできる。レボルタがソロモニアを見限る可能性も否定はしきれないが、仮に見限ったとして、あのレボルタがまともな政治をできるのかと問われると、正直否だと思ってしまう。
国民からの支持率は分からないが、少なくとも外交においてはまともな男に見えなかった。
レボルタと直接話したことのあるサトゥニアも同じことを感じたらしく、険しい顔を浮かべた。
「あの男は、エスカンに対する軍事行動も辞さない構えだったが…少なくとも、悪魔の魔力を失った今、それを今までのように行うことも不可能だろう。周辺国との関係性にもよるが、ソロモニアという組織の存在価値の根幹を揺るがした以上、混乱は避けられまい」
サトゥニアはそう言いながら、契約書類を眺めている。アモディエナも概ね同じ考えのようで、静かに頷いた。
「だが、それはドゥローラという国の中での問題だ。悪魔に手を出されないならば、我々が動く理由はない。それこそ内政干渉になるのでな」
「…そうだな」
「だが、モニタリングは継続する。特に、ラウラとヴァーレアは、逐一あの国の様子を知りたがっているのでな」
「ペルセの留学についても、当面は凍結か?」
「無論。あの娘には酷だがな…」
やはりそうか。
父としては、また人間界に行かせてやりたい。あんな急で哀しい離れ方をさせてしまった以上、なるだけ早くその傷を埋めてやりたい。
だが、ソロモニアという組織が解体されていない以上、まだペルセという悪魔を向かわせるのは危険過ぎる。それ自体も、参謀としては理解できる。
「…ほら、早く行け。そして娘を抱きしめてこい」
「うるさい」
サトゥニアはそう言うと、雑にクロニオスを追い払うように手を動かした。
クロニオスは舌打ちをし、そのまま玉座の間を出ていくのだった。




