醜悪すぎる施設
「…罪人を捕らえることそのものはいいとしても、これは酷いな…」
軍人という仕事柄、捕虜となった者達を散々見てきたであろうキマエでさえ、この反応だ。やはり、この環境は余程酷いのであろう。
「…この音は?」
「音?」
「遠くから機械音が聞こえてきます」
デメナに言われて、改めて耳を澄ます。すると確かに、こもった音ではあるが、機械の駆動音が聞こえてくる。この空間の奥の方からだ。
こんな環境下で、機械を動かしている。地下施設でもあるのだろうか。
「…この音は何ですか?この奥に、機械室でもあるので?」
「こ、この部屋の換気装置が…」
「ダウト。半分しか言えていないようですよ」
首領の解答に対し、デメナはバッサリと切り捨てた。
あまりにハッキリ言い切るものだから、首領でさえ戸惑った表情を浮かべていた。
「魂魄には、本人の感情も揺らぎとして表れます。アナタが隠し事をしていることも、お見通しです」
「ぐ…っ…!!」
デメナは自身の手中にある魂魄を眺めている。やはり、デメナの前では魂魄が丸裸にされてしまうのか。
首領は悔しそうに歯軋りをしていた。
「…追加で何かあるかもしれねぇな。調査させてもらう。デメナ、どっちだ」
「あちらから聞こえてきます」
「よし、行くぞ」
クロニオスはそう言うと、デメナの案内に従い、牢獄の中を歩く。
道中、投獄されている悪魔達を何人も見た。だがその全てが、足音に気づく様子すらない。本当に生きているのかと疑いたくなるほど、動きが全く無い。
百メートルほど歩くと、機械の駆動音がより大きく聞こえてくる。洗濯機のような、巨大なモーターの回転してるような音だ。
「この扉の先ですね」
デメナの視線の先には、また別の扉がある。確かに、この扉の先から、くぐもった駆動音が聞こえてくる。
その扉を、クロニオスは蹴破るように開けた。
扉の蝶番が壊れたが、そんなことは気にならない。クロニオス達は、その扉の先を見て、絶句した。
「何だよ、こりゃ…」
中を見ると、本棚の中にところせましと書籍が並んでおり、書斎に見えなくもない。それぞれのカテゴリごとに整理されてるようで、書類探しに困ることはなさそうだ。
だが、何よりも目につくのは、大きなガラスのタンクと、そこに蠢く魔力の塊だ。
「…不審ではありました。ラウラさん達のように相互理解をしているのならばともかく、ソロモニアやドゥローラのような考え方の持ち主が、悪魔と肉体共有してまで悪魔の力を欲するのか、と」
その光景を見て、デメナが前に出てくる。そして、ガラスのタンクに手を触れた。
中に入っているのは、濃縮された悪魔の魔力だ。それくらいは、クロニオスにも分かる。だが、デメナはどうやら、もっと深いところを見ているようだ。
「契約を結んで無理やり隷属させた悪魔を、牢獄で監禁し、その魔力を死なない限界ギリギリまで搾り取る…。この部屋は、空間丸ごと悪魔の魔力タンクである、ということですね」
デメナはそう言いながら、本棚にある本を一冊手に取り、パラパラと中身を見始めた。
何が書かれているのか。不思議に思っていると、デメナはその本の中身を、こちらに見せてきた。
「そして、その魔力を使って、下手をすると悪魔の肉体も使い、人体実験。本当に、悪魔の『力』しか欲していないことが、丸わかりです。自分は何も苦労なく、悪魔の巨大な魔力を扱いたいと」
中身を見ると、確かにクロニオスにも分かった。悪魔の身体構造の分析、魔力の質の解析、そして悪魔への直接的な薬剤投与。
ーーーとても、看過できる代物ではなかった。
「契約書類も、ここにあるようですね」
さらに、デメナは別の本棚から複数の書類を持ってきた。枚数にすると、二十枚ほどか。
羊皮紙でできた書類は、確かに人間と悪魔の間で結ばれる契約の体裁をとっている。だが、その中身は、クロニオスが知るものからはあまりに乖離していた。
「人間への無期限完全従属、魔力は余すことなく献上、そして生きる権限…生殺与奪までも、人間側に渡すことが明記されています」
デメナがそう言いながら首領の顔を見ると、首領は震えているようだった。だが、それでも納得はしていないようで、喚き始めた。
「何が、悪いんだ…!!」
その瞬間、その場の空気が凍ったのだった。




