囚われた悪魔達
首領は王宮の地下扉を開き、暗い階段を歩いている。その後ろを、四人の悪魔がついていっていた。
「…デメナ。お前の能力は相変わらずこえぇよ」
「そうですかね?ちょっと魂魄の欠片を摘んだだけですよ?」
「イアノにすらできねぇ精密操作を『だけ』で済ますんじゃねぇよ…」
「あの子はまだ大雑把にしかできませんから。これからですよ、これから」
クロニオスが呆れたようにデメナへ声をかける。しかし、当のデメナはきょとんとしていた。
ーーー今更言っても無駄だとは分かっている。だが、クロニオスも妻に言わずにいられなかった。
デメナがふと、未だに自分の手に握られてる首領の魂魄を眺めた。
クロニオスから見ただけでは、ただの白色の塊にしか見えない。だが、デメナに言わせれば、その中にある様々な感情が『揺らぎ』として検出できるらしい。
ーーーやはり、恐ろしい技巧だ。
「貴様のやっておることは、よう分からんわ」
「まぁ、非常に緻密な技巧が要求される運用技術ですから、再現できる者は限られるでしょうね」
「そんな細かい操作なぞ、ようできるわ」
サブリナが感心半分、呆れ半分でデメナに声をかける。そんなサブリナに対しても、デメナは少し惚けたような反応をしていた。
再現できる者は限られる、と言っているが、クロニオスが知る限り、デメナの能力を一部でも再現できているのは、魔界ではイアノしかいない。自分やアモディエナすら再現できないのだから、それだけ難解な技術である。
「御三方。ここは敵地のど真ん中。旅行に来ているわけではございませんよ」
「分かっておるわ。貴様は真面目じゃのう」
「あなたについては、最初から期待していません」
「酷いのう。仮にも貴様の上官じゃぞ?」
キマエから注意を受け、サブリナはカラカラと笑っている。この二人のやり取りは、もういつも通りだ。
とはいえ、地下室を見回しても、敵の気配はない。一本道の暗い階段を下りているだけで、トラブルが起きそうな様子もない。
四人の話し声と、それぞれの足音だけが、空間内に響く。
「…ここだ。この先に、悪魔共を閉じ込めている」
しばらく階段を下りると、頑丈そうな鉄格子の扉が見えてきた。
今日限りで役目を終えることになるだろう部屋ゆえ、蹴破ってもよかったのだが、首領が鍵を空けてる様子を見て、一旦留まることにした。
鍵の開く音とともに、扉が重い音をたてる。扉が錆びたりして、立て付けが多少悪くなってるのか、地面に多少引っかかりながら開かれた。
「…ここに全員いるんだな?」
「…あぁ」
首領の表情は、隙あらば反撃しようとしている、飛びかからんとしようとしてるようなものだった。だが、デメナが魂魄を握ったままである以上、歯向かうことができないのだろう。
中に入ると、魔界の牢獄区画と同じような、複数の牢獄がズラリと配置されており、中には枷と鉄柱をくくりつけられ、ズタズタにされた姿の悪魔が、ボロ雑巾のように放置されていた。
地下室ということもあり、湿気がこもっている。若干のかび臭さや、排泄物の匂いもする。
ーーー罪人であるとはいえ、同族の悪魔が、ここまで劣悪な環境下で、一方的な契約を結ばされて搾取されてるのを見るのは、少し複雑な気分だった。




