結界破壊
展開されている空間拘束術式に魔力が流し込まれると、確かに周りから押し潰されてるような圧力を感じる。
気にもならない、というには強すぎるものだが、特段支障があるか、と問われると特にない、という微妙な塩梅の圧力だ。
単純に閉じ込めるだけではなく、中にいる者に、物理的なプレッシャーを与えて、動けなくすることを想定しているのか。発想は悪くないが、結局脅して従わせるしかない辺りが幼稚だ。
「さて…誰が行く?誰もいないなら俺が行くが」
「ならワシがやってもよいか?」
クロニオスは後ろを振り向く。
拘束を破壊したキマエとデメナは、各々体をほぐしている。
サブリナだけが、挙手をしてきた。
「デメナは先程まで痛い思いをさせられてたのじゃ、そんな愛する妻にさらに働けというのは、旦那としても酷じゃろ」
「余計なお世話だ」
サブリナがそんな軽口を叩いてくるものだから、クロニオスは露骨に不機嫌な返しをしてしまった。
当のデメナはクスリと笑っている。二人とも、ここが敵地の中だということを忘れているのだろうか。
「酷いのう。せっかくデメナを気遣ってやったというのに」
「うるさい。いいからやるならさっさとやれ」
「はいはい。全く、反応が真面目すぎるのう」
クロニオスが地味なプレッシャーをかけると、サブリナは適当に返事をしながら、空間拘束術式の端へと向かう。
その地点は、最も魔力が集中しているポイントで、通常なら破壊のために狙う場所ではない。しかし、サブリナは敢えてそこに狙いをつけたようだ。
「さて、と…」
サブリナは首を回し、指の骨を鳴らしている。
生き物が相手ならば、寸止めや非接触の一撃のみに制限することで殺害を抑えさせているが、今回の相手は術式だ。サブリナが拳を振り抜いても、止めるつもりはなかった。
「バカが!いくら怪力でも、この空間拘束術式を物理で破るなど不可能よ!!」
「数百年前に強制召喚した大悪魔でも、力で破ることができなかったという術式!それに、さらに改良を重ねたものだ!破れるはずがないのだ!!」
ーーー数百年前に強制召喚した、悪魔。それはもしや、ヴァーレアのことだろうか。あの悪魔も、この空間拘束術式の原型の術式を受けていたのか。
そう思うと、この術式に対しても、不思議と嫌悪感がわいてくる。
「ほう…。ならば、ワシの拳で試してやる」
サブリナは嬉しそうに笑うと、正拳突きを行う構えを取った。腰を下げ、足を広げ、左の拳を勢いよく突き出すため体勢。
ーーーデメナもいい性格してると思ったが、サブリナも大概だ。わざと、利き手とは反対の手でぶち抜こうとしている。
ソロモニアの魔術師達は、変わらず高を括ってるようで、ただ笑っているだけだった。
「ほれ」
サブリナは精神統一もなにも行うことなく、空間拘束術式に向けて拳を振るった。
掛け声の軽さに反し、その威力は凄まじい。術式の展開する結界に衝突した衝撃が、クロニオス達の元まで届くほどだった。
そしてーーーソロモニア自慢の空間拘束術式は、その破壊力を受け止めきることは、できなかったようだ。サブリナが殴りつけたことで、結界が破壊されており、大穴が空いている。
「ば…かな…!?」
「…脆いものじゃ。ちゃんと耐久性能試験をやっておったのか?」
サブリナはそう言いながら、空間拘束術式の外へと出た。ソロモニアの魔術師達は、もう完全に崩れ落ちていたが、気にも留めていないようだ。
「…やれやれ。結局拳ですか。相変わらずなやり方ですね」
「正拳とはいえ、利き手ではない方の、しかも魔力無しでの一撃でこれほどの威力…さすが、サブリナ様です」
デメナとキマエも、それぞれ違う感情を抱きながら、術式の外へと出ていく。
その二人の後を追うように、クロニオスも術式の適用範囲の外へと出たのだった。




