化物による解縛
クロニオスは近寄ってくる男達を見る。その顔は、醜悪に歪んでいる。
ーーーもうすでに、勝ったと思っているようだ。だが、もう弱いフリは終わりだ。
「…レボルタ・ドゥローラに伝えろ。捕縛は失敗だ…とな」
「はぁ?」
クロニオスが冷徹に告げる。だが、ソロモニアの魔術師達は、まともに聞こうとはしていない。
一瞬首を傾げた後に、ゲラゲラと笑い始めた。
「聞いたか?縛られておいて、『捕縛は失敗だ』だってよ!」
「罠にかかったのは自分なのに、何をカッコつけてるんだか!!」
「お仲間も含めて全員囚われちまった、無能な指揮官だな!!」
ーーー好き放題言ってくれる。だが、その扱いに対し、怒りの感情は沸かなかった。
クロニオスは全身に力を込める。
鎖の強度は、確かに高い。並大抵の悪魔が軽く壊せるものではない。
だが、それでも。自分を相手にするには、あまりに脆過ぎる。
「…まずい…!!」
すると、拘束術式に魔力を流し込んでいると思われる魔術師の一人が、声をあげる。
どうやら、異常に気づいたようだ。クロニオスの体を縛る鎖は、すでに悲鳴をあげ始めている。あまりの力に、千切れかけ、壊されかけているのが見えているだろう。
「どうした?」
「鎖が…形状を維持できない!!想定外の外力で…千切られている!!」
「なに!?」
ようやく、事態を認識したか。ソロモニアの陣営が、パニックに陥っている。
ーーーしかし、もう手遅れだ。
「フン…」
クロニオスは自身を縛っていた鎖を、力尽くで引き千切り、破壊してしまった。千切れた鎖の欠片が、辺りに飛び散っている。
こんなチンケなもので自分を拘束しようなどと言うのならば、想定が甘すぎるにも程があるというものだ。
「くそっ…!!なんてことだ…!!」
「おい…まさか…!!」
だが、ソロモニアの者達に、休む暇など与えるつもりはない。クロニオスが立ち上がる後ろで、サブリナとキマエも同様に、力をもって鎖を引きちぎってみせた。
軍人で大柄なキマエはともかく、平均的な成人女性体型のサブリナが、力で鎖を引きちぎってしまうのは、完全に想定外だったのだろう。ソロモニアの魔術師達は、目の前の光景を受け入れられないようで、唖然としている。
「やれやれ…こんなもの、マッサージにもならんわ。もっと強う締め付けてもらわんとのう」
「…サブリナ様、あまり挑発なさらぬよう」
肩でも凝った、と言わんばかりに腕を回すサブリナと、首を回しているキマエが、ソロモニアの魔術師達を見ている。
だが、魔術師達の視線は、未だに拘束されたままのデメナへ向いていた。
「くそ…!あの女、あの女だけでもなんとか…!!」
「私で王手飛車取りでもかけるつもりですか?…残念ですが…」
しかし、当のデメナは余裕そうだった。
その言葉と同時に、デメナを縛る鎖が、まるで内側から一気に錆びさせられてるかのようにひび割れていく。
「なっ…なんだ!!」
「鎖が解体されています!!こ、壊される!!」
「なんだと!?」
ソロモニアの魔術師達は、再びパニックに陥った。
しかし、無駄な抵抗だった。デメナは自分を縛る鎖を、呆気なくバラバラに解体してみせた。
粉々になった鎖が、地面に落ちて擦れる音だけが、耳に入った。
「あなたがたが私達を拘束したその十秒後には、解析が完了していましたよ。思いの外、単純な機構で助かりました」
ーーー我が妻ながら、恐ろしい。魂魄へ繊細に干渉するために必要な、異常なまでに緻密な観察眼。デメナはそれをもって、ソロモニアの拘束術式を、ほとんどノータイムで解析しきっていたようだ。
しかも、自分は特に指示していないのだが、デメナはあえて、他の三人よりも拘束を破壊するタイミングを遅らせたようにも見える。
意図的ならば、相当いい性格だ。
「バカな…!!」
「待て…まだ空間拘束術式は有効だ!!」
「そうだ…!まだ、封印はできている!ここから出すな!!」
魔術師達はそう言うと、空間拘束術式へ魔力を集めることにしたらしい。強度を上げ、確実に閉じ込める気だろう。
ソロモニアが取り得る手としては、間違っていないかもしれない。だがそれも、無駄な抵抗に終わらせる。
クロニオスはゆっくりと近寄るのだった。




