守衛突破
しばらく歩くと、城壁に囲まれた大きな王宮と、その前に立ちはだかる大きな門が見える。
ーーーこういう外面の部分だけは、ちゃんと王国の王宮だ。クロニオスは内心少し呆れていたが、それでも歩みを止めるつもりはなかった。
「待て。貴様ら何者だ」
すると、門の横に立っている守衛に、入口で止められてしまう。守衛は門を塞ぐように、持っていた槍を垂直に交錯させている。
ーーーやはり、聞いていないようだ。国王ですら、恐らくまともに手紙を見ていないのだろう。
だがそれでも、ちゃんと手続きを踏まなければならない。クロニオスは懐から、実際にエスカンを通じてドゥローラへ出した手紙のコピーを取り出した。
「我々は魔界より来た悪魔だ。レボルタ・ドゥローラに今日この時刻に来ることを、手紙で通達済みだ。疑うならば、エスカン王国のヨルゼフ・エスカン陛下に確認してくれて構わない」
クロニオスは手紙を守衛たちの前に差し出した。だが、守衛はあろうことか、その手紙を見て、つばを吐きかけてきた。
吐かれた唾が、手紙に付着する。手紙が濡れて、紙が少しふやけてしまった。
「…客人に対して、その態度はどうかと思うが」
「貴重なブツを持ってきた商人ならいざ知らず、そうでないなら人外は通せねぇな。エスカンの国王が証人とか言ってたが、そこに何の価値もない。つまり、お前らは客ですらねぇよ。ほら、帰った帰った!」
守衛はそれだけ言うと、まるで厄介者を払うかのように、シッシッと手を動かした。
後ろに立つサブリナが怒らないか心配だったが、サブリナはそもそも話を聞いていない様子で、空を眺めながら「明るいのう…」とか呟いている。
本来なら集中しろ、と叱り飛ばすところだが、今回に限っては助かった。
クロニオスは手紙についた唾を拭き取り、手紙を懐に戻した。
「…そうか。ならば、遠慮する必要もねぇな。デメナ」
「はい」
こんな態度をとるなら、穏当に入る必要もない。
だが、迂闊に戦闘を起こす気もない。ゆえに、クロニオスはデメナを呼んだ。
デメナは短い返事とともに、守衛達の方へとゆっくり近付く。
「何だ、あんたは。色仕掛けでもして取り入ろうってのか?」
「…いや、でも悪くねぇな。この女、美人だし。可愛がってや…」
下品な言葉を続けようとした守衛二人は、デメナに近づかれただけで、まるで意識がパッタリと途絶えたように、その場に崩れ落ちてしまう。
相変わらず、驚異的な能力だ。からくりが分かればシンプルだが、外から見ると本当に意味不明だ。
魔力を介し、相手の魂魄に干渉し、魂魄の内部にある『意識を保つ』部分に直結する部分をピンポイントで一時遮断する。デメナがやってるのは、そんな繊細な操作だ。
正直、理屈は理解できても、自分にすら真似できるものではない。
「…とりあえず、一時間程度気絶させておきました」
「ご苦労」
妻に卑猥な視線を向けようとしたことは、夫としては看破できるものではない。だが、そんな小さなことを気にしてる場合でもない。
「サブリナ、いつまでボケっとしてる。行くぞ」
「んぁ?終わったのか…全く、退屈じゃ」
「…任務が終わったら、俺と組手でもするか」
「よいのか!?」
ーーーコイツは昔から、分かりやすい女だ。クロニオスの一言で、一気に目が輝いた。
思えば、サブリナとの出会った時も、最初の頃は殴り合ってた記憶しかない。あの時から、サブリナは何も変わっていないのだ。
後ろをついてくるサブリナを気にしながら、クロニオスはそんなことを考えていた。
守衛を昏倒させた一行は、王宮の中へと入っていくのだった。




