作戦考案
「…やれやれ…公私混同も勘弁願いたいものですがね…」
「そう言ってやるな。修羅場に巻き込まれた子供が帰ってきたのだ、割り切れるわけなかろう」
サトゥニアの隣に来たアモディエナが、呆れたように呟く。だが、サトゥニアは分かっていた。
マールもハイーラも、クロニオスもデメナも、皆ペルセを愛してやまないからこそ、修羅場を味わってきたペルセを甘やかさずにはいられなかったのだろう。
ーーーまぁ、イアノがヴァーレアを甘やかしたのは想定外だったが。
「…それで、アモディエナよ。裏は取れたのだな?」
「はい。エスカンとやらの国王の情報は、正しいことが分かりました。こちらで把握してる追放時期や犯罪情報などと照らし合わせた結果も、特に齟齬を生じておりません」
「さすがだ」
「こちらが詳細になります。ご確認ください」
アモディエナのこの実務・調査能力にはいつも舌を巻かされる。自分が魔王として即位する前から、ずっと実務畑でやってきた男だけはある。
サトゥニアはアモディエナが提示してきた資料に目を通し始めた。
資料は、ヨルゼフから提示された情報と、アモディエナの調査による新情報が事細かに加えられ、そこに矛盾を生じていないことを、確かな証拠をもって示していた。
「しかし魔王様…。彼らを呼び戻すと言っても、ドゥローラとやらに捕らわれていて、契約まで結ばされてる以上、引き剥がすのは困難を極めるか、と」
「…ヴァーレアのように、当人の自由意志で契約を結んでいるなら、そうだろうな」
アモディエナの懸念点ももっともだ。
一度契約を結んだ人間から、悪魔を引き剥がすことはかなり難しい。
人間界では、聖水や聖書で攻撃を仕掛けながら、名前を把握することで支配下へと置く、という回りくどい悪魔祓いを行っていると聞く。
エクソシスト、だったか。かつての人間界にはそんな専門の仕事まであったということも耳にしたことがある。
だが、それは悪魔側が本人の意思で人間と契約を結び、本人が離れることを望んでいない場合の話だ。
「だがアモディエナよ。強制的に隷属させられてる場合、話は単純だ。その悪魔が縛られてる拘束を、鎖を破壊してやればよい。貴様も資料を見たと思うが、ドゥローラが抱えてる悪魔は、皆強制的な契約を結ばされてると推測されている」
「しかし、連中は我々をかなり高い精度で研究していると伺いました。私でも、破壊できるかは分かりません」
「…心配するな。数百年前、ヴァーレアが誘拐された時とは、こちらの持つ戦力も異なる」
サトゥニアはそう言いながら、資料から視線を上げる。そこには、変わらないアモディエナの姿があった。
柔和ながら、どこか硬さの残る男の表情。どんな時もブレることのない、いつものアモディエナだ。
「物理で破壊するならばクロニオスやサブリナ、マルス家の軍隊が、分析と解析で構造を破壊するならばデメナとイアノがいる。それに…」
サトゥニアはそう呟くと、自身の手から、軽く白い魔力を放出する。
王の資質が宿っている、白色魔力。自分の知る限り、魔王たる自分とクロニオス、そしてクロニオスの娘であるペルセもその身に宿す魔力だ。
「…そもそも、同格未満の魔力の存在を許可しない、王の資質。魂魄を取り扱う能力を確立させたデメナにも理解し得ない、最大で最も未知な魔力。それを扱える者も、俺以外にいる」
魔力を介した魂魄への干渉や観察という能力を徹底的に磨き上げ、継承したイアノや、大元であるデメナでさえ、理解できない、特殊な魔力。
最後の手段にはなるが、王の資質を巻き散らせば、魔力そのものを『制圧』し、『上書き』できる。
それを起こしてしまえば、悪魔を拘束する契約という魔力の鎖を、完膚なきまでに停止させてしまえる。
「…かしこまりました。そうなると、ペルセの両親を向かわせるのが妥当か、と」
「結果的に、そうなるのか…」
クロニオスとデメナ。娘を傷付けようとした組織に、あの二人を向かわせるのは不安もある。
だが、ペルセの親として、重要な判断どころか、現場でも何もさせないというのも、酷な話かもしれない。
「…ストッパーを同行させることが条件だな」
サトゥニアの呟きが、玉座の間に、やけに大きく響くのだった。




