玉座の間からの帰宅
自分をこんな軽々と、しかも雑に持ち上げられ、ペルセも驚いた。だが、自分にこんな扱いをしてくる相手なんて、一人しか思い浮かばなかった。
「…お父さん?」
振り向くと、そこにあったのは父親のクロニオスの姿だった。クロニオスはペルセを軽々と抱えて、その腕の上に乗せた。
相変わらず、丸太のような腕と逞しすぎるその体は、やっぱり安心できる。ペルセはクロニオスの胸板に体を預けた。
「ペルセ、無事で良かった…」
「ペルセさん…」
すると、ペルセの頭に、母親の手が添えられる。デメナの手も、相変わらず優しいものだった。
デメナはじっとこちらの顔を見つめてくる。何かあるのだろうか。
「ペルセさん。よく頑張りました。もう、大丈夫ですよ」
「…色々聞きてぇことはあったが…結局、そこだよな」
両親から、優しい言葉をかけられる。
昨日、人間界で散々泣いてきてなければ、ここで安心して大泣きしていたかもしれない。
ペルセは笑顔で頷き、クロニオスの胸板に顔を埋めた。クロニオスのスーツにシワがつくかもしれないが、そんなことは気にもしていなかった。
デメナの手の上に重ねられるように、クロニオスの手が重なり、二人の手がペルセの頭に添えられている。両親の手が重なって、自分の頭を撫でてくるのは、予想外だった。
「…なぁ…」
すると、背後から少し気まずそうな様子の男の声が聞こえてくる。
その声に反応して振り向くと、そこにいたのは分厚い資料を抱えたアモディエナの姿だった。
何だか、急に恥ずかしくなってしまう。だがそれでも、クロニオスの胸の中から離れたいとは思えなかった。
「お前達、ここが魔王様の御前だということを忘れていないか?」
アモディエナの一言で、その場にいた全員が気まずそうに視線をそらす。
ペルセ自身も正直、玉座にサトゥニアがいることを完全に忘れてしまっており、言い返すことができなかった。
「構わん。帰ってきたばかりなのだ、あまり言ってやるな」
「しかし…」
「だが、いつまでもここに屯されても困るな。貴様ら、先に帰っていいぞ」
サトゥニアは穏やかにそう言ってきた。
戸惑うアモディエナを横目に、デメナとイアノとヴァーレアは一礼し、ハイーラとマールも深々と頭を下げて、その場を立ち去った。
「…クロニオス、さっさと帰れ」
「分かってる。…なぁ、サトゥニア」
「何だ?」
クロニオスは玉座に座るサトゥニアと、そこに資料を持って近寄るアモディエナを見つめてるようだった。
何を考えてるのだろうか。ペルセはクロニオスの腕に座ったまま、クロニオスの顔を見つめた。
「娘を助けてくれて、改めて感謝する」
「お前がそんなこと言うとは、気持ち悪いな。さっさと行け、この親バカが」
クロニオスが感謝を述べていたが、サトゥニアはそれを一蹴した。
普通なら冷たい相手だと思うところだろう。だが、ペルセはこの十年、クロニオスとサトゥニアの仲の良さも知っていた。
「…お父さんには相変わらずだね」
「アイツは昔から変わってねぇよ」
父娘でのやり取りに、サトゥニアが後ろで「聞こえてるぞ」とか言ってきたが、クロニオスもペルセも気にすることはなかった。
クロニオスはペルセを抱っこしたままで、玉座の間を後にするのだった。




