帰還の挨拶
しばらく、目を閉じていた。まぶた越しにも分かるほどの強い光が、時間と共に、次第に落ち着いてきた。
それと同時に、人間界の魔力の薄い空気から、慣れ親しんだ魔力の濃い、心地よい感触を感じる。
ーーー魔界だ。到着したのか。
そう感じると、ペルセはうっすらと目を開ける。
目の前に広がっていたのは、何度か来たことのある、魔界の玉座の間。玉座には、昨日と変わらない様子のサトゥニアが座っていた。
「ま、魔王様!!」
すると、隣にいたヴァーレアが、サトゥニアの前でいきなり跪いた。
一体どうしたのか。戸惑いながら、その様子を見ていると、部屋の影から人影が現れた。
「ペルセちゃん!!」
「ぐぇっ…!!」
人影の正体は、ハイーラだった。ペルセを見るや否や、子供のように飛びついて、ペルセを強く抱きしめてきた。
力の加減ができていないらしく、抱き締められてかなり苦しい。
「ペルセちゃん…無事で、よかった…!!」
「…ハイーラ〜、ちょっと落ち着きなよ〜」
「落ち着けるわけないでしょうが!?人間界で、あんな目に遭ってたなんて…!!」
すると、ハイーラの後ろからマールが現れた。相変わらず眠そうな様子だが、その目はハイーラ同様、ペルセのことを心配してる事がわかるような目だった。
ハイーラもマールも、人間界で何があったのかを聞いていたのか。少なくとも、ペルセ自身は話していないので、恐らくサトゥニアかイアノから伝わったのかもしれない。
しかし、今そんなことを気にしてる場合ではない。ハイーラの抱擁が、強すぎる。何とか振り解こうとしても、まるでビクともしない。ハイーラの力は、こんなに強かったか。
「ハイーラ〜…ペルセが苦しそうだよ〜。ちょっと解放してやりなよ〜」
「やだ!!放したくない!!」
「え〜…」
ハイーラは解放する気がさらさらなさそうだ。
嬉しいのだが、ペルセの体にも限界はある。
ペルセは何とか、ハイーラの背中を叩いた。
「ギブ…!ギブ…!!ちょっと、離れて…苦しいから…」
このままでは、意識が飛んでしまう。本能的にそう感じたペルセは、ハイーラに何とか自分の状態を伝えた。
「…ごめんなさい、取り乱しちゃった…」
「最初から言ってたじゃ〜ん…」
「るっさい」
さすがのハイーラも、ようやくペルセを解放してくれた。思いの外強い力で抱き締められたので、ペルセの口から何回か咳が出てしまった。
「ゴホゴホ…えっと…ただいま、ハイーラさん、マールさん」
「「お帰り〜」」
咳き込みながらも、何とか挨拶をする。それに対し、マールとハイーラは、まるで打ち合わせでもしたかのように、ピッタリのタイミングで挨拶を返してきた。
「…いいなぁ。ボクもあんな風に抱き締めてもらいたかったよ」
「あなたはもう、いい大人でしょう?」
「情緒ぶっ壊さないでよ、姉様!?」
その様子をずっと見ていたヴァーレアとイアノが、何か言っているのが聞こえた。
だが、イアノも何か思うところがあったのかもしれない。おもむろに、ヴァーレアの頭に手を置いた。
「姉様?」
「お帰りなさい、ヴァーレア。よく、戻ってきましたわ」
「…姉様ああああああ!!そういうのずるいいいいい!!」
そう言うと、ヴァーレアはイアノに飛び付いた。
元々人間界にイアノが来てからずっと一緒にいたはずなのだが、何か違ったのだろうか。
ペルセには、あの姉妹の情緒を理解することはできなかったが、ヴァーレアに刺さるものがあったのかもしれない。
そう思いながらイアノたちの方を眺めていると、いきなりペルセの体が持ち上がるのだった。




