魔界への一時帰還
「お忘れ物は、ございませんの?」
「…うん」
次の日の昼間。ペルセが魔界に帰る日が来てしまった。
もう、この明るい空を見ることも、できなくなるのか。そう思うと、寂しさがこみ上げてくる。
イアノから荷物の確認もされる。中身を確認しても、特に忘れ物はない。ペルセはカバンを持って、立ち上がった。
扉を開けると、そこにはイアノが待っている。その隣には、ラウラの肉体を借りて、意識を表に出しているヴァーレアの姿がある。
ーーー今日は、エストラも休みではないはずだ。なのになぜ、ヴァーレアがここにいるのか。
ペルセが不思議に思っていると、ヴァーレアが口を開いた。
「姉様、本当にボクまで連れて帰るの?」
「当然ですわ。あなたはまだ、ラウラさんと共に狙われてる身。こちらとしても保護対象ですわ」
二人の話してることの意味がわからない。
ヴァーレアまで、人間界から連れ出すというのか。狙われてるから、というのは分かるが、それではエストラの業務に支障が出てしまうのは明らかだ。
「無理を言ったのは承知ですわ。ですが、ソロモニアが直接あなたに危害を加えてきた以上、人間界に留まるのは危険でしょう?」
「そりゃまぁ…でも、伝えたら生徒達大パニックだったんだよ…?ペルセ様の留学中断に加えて、ボクらまで一時的にエストラを離脱なんて…」
「えぇ…ですが、仕方がありません」
イアノはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「さ、帰りますわよ。すでに、家の入口に、魔界への転送陣を敷いてありますわ。早めに使わないと、効果が切れますわよ」
「…こんな形で里帰りはしたくなかったなぁ…」
イアノはそう言うと、玄関に向けて、スタスタと歩いていく。その後ろをヴァーレアが、さらに後ろにペルセがついていく。
目に焼き付けておかなければ。下手をすると、もう二度と来れない場所になってしまう。ペルセは何度も振り返りながら、玄関へと歩みを進めた。
玄関の扉を開けると、すぐ近くに赤い転送陣が敷かれている。一方通行の、使い捨て式の転送陣だ。
「私の体に触れててくださいね。魔界に転送しますので」
「…うん」
ペルセは頷くと、イアノの服の袖を握る。
すると、転送陣が赤く光り出した。イアノが魔力を流し込んだのだろう。もう間もなく、転送されてしまう。
その後ろで、ガチャリという音が聞こえた。その直後、ヴァーレアがバタバタと走ってくる足音も聞こえてきた。
「ちょ、姉様早い!鍵閉めるまで待っててよぅ!!」
「時間的な猶予は取っておりましたわよ?」
「そこじゃないんだよぉ…」
ヴァーレアが慌てて、転送陣の中へ入ってきた。そして、イアノの肩に触れる。
これで、三人まとめて転送ができる状態となった。それを感知したかのように、赤い光が強くなる。
「玉座の間に転送予定ですわ。目を閉じててくださいまし」
イアノにそう言われ、ペルセは目を閉じた。
その直後、まぶた越しにも分かるほどの強い光に覆われた。




