境界の、不可思議な夢
ーーー不思議な、夢を見た。
目の前には、綺麗な花畑が広がっている。ダスノムはおろか、今いる上位の町でも見たことないような、広大な花畑が。
そんな空間で、自分が何でもできる、最強の存在になったかのような。そんな気分だった。
夢の中の自分は、その力を振るい、好き勝手な振る舞いをしていた。
目にしたものは、全部自分のものにしてしまった。美味しそうな食べ物、面白そうな道具。他者が持つモノも、関係なく。
それでも、次から次へと、飽きて捨てて、また別のモノを欲した。
今までの生活と比べて、この上なくモノが溢れている。
ーーーしかし、心は満たされない。
常に、オーレンやマール、ハイーラの影がチラついていた。
「…ペルセ」
ペルセは後ろから呼び止められ、振り向いた。そこにいたのはーーー
「オーレン…さん…!」
あの時、死んだはずのオーレンだ。自分の知る、死んだ当時のままの、汚い姿のオーレンだった。自分を育ててくれた、たった一人の、父親のようなーーー。
そんなオーレンはゆっくりと、自分の方へ歩いてくる。
ーーーいっぱい、お話したい。
すぐに、抱きつきたい衝動にかられる。しかし、体を動かすことはできなかった。オーレンが近寄ってくるのを待つしかなかった。
「オーレンさん…!会いたかった、よ…!!」
思わぬ再会に、涙が溢れる。
このオーレンが現実の存在なのか、それとも夢なのかは分からない。しかし、ペルセにとって、そんなのはどうでもよかった。
「…ペルセ。よく、頑張ったな」
…何も変わらない。オーレンの表情は、ペルセを気遣ういつもの表情だった。その手が、優しくペルセの頭を撫でている。
ーーー温かい。そして、懐かしい。
その手の動きに、ペルセの涙腺は完全に壊れた。
ペルセの泣き声が、空間に大きく木霊する。
息が苦しい。呼吸が乱れて、肩が上下する。しかしそれでも、ペルセの涙は止められなかった。
ダスノムを旅立ってから、あまりに色々なことがありすぎた。自分だけでは、とても処理しきれない。
オーレンに話したいことがたくさんあるのに、言葉にならない。
オーレンはそれを知ってか知らずか、泣き続けるペルセを拒否も否定もせず、優しい手付きで頭を撫で続けていた。
ペルセはオーレンの服を掴み、何とか声を殺そうとする。しかし、後から後から、嗚咽が漏れてしまう。
「オーレンざぁぁぁぁん…!!」
もはや、感情がグチャグチャだ。自分でも、何を言おうとしていたのか、言いたかったのかが分からない。
今はただ、オーレンにこうやって甘えていたい。それだけだった。
「…ペルセ、済まない」
オーレンは、その一言と共に、服を掴んでいたペルセの手を、優しく引き剥がした。
「ふぇ…?」
肩を上下させながら、ペルセは涙と鼻水でグチャグチャになってしまった顔を、オーレンの方に向ける。
ーーー次の瞬間、ペルセの体は、押し出されていた。
何が起きたのか。気づいた時には、自分の体が落ち始めている。下を見ると、底が見えない暗闇だった。
「えっ…!?」
せっかくオーレンに会えたのに。
こんな形で、お別れなのか。そんなの、イヤだ。
何とか、必死に手を伸ばし、オーレンの方に戻ろうとするが…ペルセの短い腕は、届かない。
「…お前はまだ、『こっち』に来るな」
「そんな…!!」
そう聞こえた時には、もうオーレンの姿が遠くなっていた。
ただただ、落ちていく。いくら手を伸ばしてなにか掴もうとしても、空を切るだけだった。
「やだ…っ!!」
色々、話したい。
オーレンには、まだ伝え足りない。
無情にも、オーレンとの距離は遠ざかる。
しかしながら、穴の底から、別の声も聞こえてきた。
「ペルセ〜、帰ってきて〜」
「ペルセちゃん…!!」
ーーー自分を呼んでいる、マールとハイーラの声。
そうだ。戻らないといけない。こんな自分にも、待ってくれてる者が、いた。
「…戻ろう…。マール、さん…ハイーラ、さん…!ちょっと、待ってて…!」
ペルセは、涙と鼻水を拭い、穴の上から視線を外した。
落ちていたはずの体が、次第に深く沈んでいくような錯覚を覚えた。怖いけど、それでいい。
そのまま、流れに任せて、穴の底へ突っ込むことにした。




