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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二章 上位の町・アスティアノ
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境界の、不可思議な夢

 ーーー不思議な、夢を見た。


 目の前には、綺麗な花畑が広がっている。ダスノムはおろか、今いる上位の町でも見たことないような、広大な花畑が。


 そんな空間で、自分が何でもできる、最強の存在になったかのような。そんな気分だった。


 夢の中の自分は、その力を振るい、好き勝手な振る舞いをしていた。

 目にしたものは、全部自分のものにしてしまった。美味しそうな食べ物、面白そうな道具。他者が持つモノも、関係なく。

 それでも、次から次へと、飽きて捨てて、また別のモノを欲した。


 今までの生活と比べて、この上なくモノが溢れている。


 ーーーしかし、心は満たされない。

 常に、オーレンやマール、ハイーラの影がチラついていた。


「…ペルセ」


 ペルセは後ろから呼び止められ、振り向いた。そこにいたのはーーー


「オーレン…さん…!」


 あの時、死んだはずのオーレンだ。自分の知る、死んだ当時のままの、汚い姿のオーレンだった。自分を育ててくれた、たった一人の、父親のようなーーー。

 そんなオーレンはゆっくりと、自分の方へ歩いてくる。


 ーーーいっぱい、お話したい。


 すぐに、抱きつきたい衝動にかられる。しかし、体を動かすことはできなかった。オーレンが近寄ってくるのを待つしかなかった。


「オーレンさん…!会いたかった、よ…!!」


 思わぬ再会に、涙が溢れる。

 このオーレンが現実の存在なのか、それとも夢なのかは分からない。しかし、ペルセにとって、そんなのはどうでもよかった。


「…ペルセ。よく、頑張ったな」


 …何も変わらない。オーレンの表情は、ペルセを気遣ういつもの表情だった。その手が、優しくペルセの頭を撫でている。


 ーーー温かい。そして、懐かしい。

 その手の動きに、ペルセの涙腺は完全に壊れた。


 ペルセの泣き声が、空間に大きく木霊する。

 息が苦しい。呼吸が乱れて、肩が上下する。しかしそれでも、ペルセの涙は止められなかった。


 ダスノムを旅立ってから、あまりに色々なことがありすぎた。自分だけでは、とても処理しきれない。

 オーレンに話したいことがたくさんあるのに、言葉にならない。


 オーレンはそれを知ってか知らずか、泣き続けるペルセを拒否も否定もせず、優しい手付きで頭を撫で続けていた。

 ペルセはオーレンの服を掴み、何とか声を殺そうとする。しかし、後から後から、嗚咽が漏れてしまう。


「オーレンざぁぁぁぁん…!!」


 もはや、感情がグチャグチャだ。自分でも、何を言おうとしていたのか、言いたかったのかが分からない。


 今はただ、オーレンにこうやって甘えていたい。それだけだった。


「…ペルセ、済まない」


 オーレンは、その一言と共に、服を掴んでいたペルセの手を、優しく引き剥がした。


「ふぇ…?」


 肩を上下させながら、ペルセは涙と鼻水でグチャグチャになってしまった顔を、オーレンの方に向ける。


 ーーー次の瞬間、ペルセの体は、押し出されていた。


 何が起きたのか。気づいた時には、自分の体が落ち始めている。下を見ると、底が見えない暗闇だった。


「えっ…!?」


 せっかくオーレンに会えたのに。

 こんな形で、お別れなのか。そんなの、イヤだ。


 何とか、必死に手を伸ばし、オーレンの方に戻ろうとするが…ペルセの短い腕は、届かない。


「…お前はまだ、『こっち』に来るな」

「そんな…!!」


 そう聞こえた時には、もうオーレンの姿が遠くなっていた。


 ただただ、落ちていく。いくら手を伸ばしてなにか掴もうとしても、空を切るだけだった。


「やだ…っ!!」


 色々、話したい。

 オーレンには、まだ伝え足りない。


 無情にも、オーレンとの距離は遠ざかる。

 しかしながら、穴の底から、別の声も聞こえてきた。


「ペルセ〜、帰ってきて〜」

「ペルセちゃん…!!」


 ーーー自分を呼んでいる、マールとハイーラの声。


 そうだ。戻らないといけない。こんな自分にも、待ってくれてる者が、いた。


「…戻ろう…。マール、さん…ハイーラ、さん…!ちょっと、待ってて…!」


 ペルセは、涙と鼻水を拭い、穴の上から視線を外した。


 落ちていたはずの体が、次第に深く沈んでいくような錯覚を覚えた。怖いけど、それでいい。


 そのまま、流れに任せて、穴の底へ突っ込むことにした。

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