進まぬ調査、不審な異常
ハイーラは椅子に腰かけ、自身の魔力を空間に放出する。その魔力は、様々なデータを出力できるモニターを形成した。
「…何を調べるの〜?」
「ダスノムに関して。何が乱れが起きてないか、とかをね」
後ろからマールが声をかけてくる。ハイーラは雑に答えつつ、画面の指示に従い、ダスノムの観測データにアクセスしようと試みた。
「ありゃ〜。ロックかかってる〜」
「…こういう時は、アスティアノに住んでて良かったと思えるわね」
画面には、見慣れない文字。どうやら、データには閲覧制限がかかっているらしい。
恐らく、アスティアノ在住の者でなければ、ダスノムの観測データにアクセスすることすらできないだろう。
ハイーラは、モニターに自身の魔力をかざす。
モニターの表示は、すぐには変わらない。
「…こういうの、あるんだね〜」
「これは、アスティアノの悪魔の特権みたいなものよ。…まぁあんたは、できたとしても使わなさそうだけど」
軽口を叩きつつ、画面が進むのを待っていた。
ーーーしばらくすると、無機質な機械音が、部屋に響いた。
「…よし」
「へ〜、こんな感じなんだね〜」
「私も久し振りに聞いたわ、この解除音」
厄介な調べ物をする時にしか使わない、この特殊データベースへのアクセス。ハイーラとしても、あまり聞きたい音ではない。
アクセスした先には、様々なデータのタイトルが表示されている。
「…マール。あんた、ペルセちゃんを拾ったのはいつ?」
「え?」
「いいから答えて」
データベースの中を探りながら、背後から覗き見ているマールに質問をする。
マールは若干困ったような表情を浮かべているが、そんなのは関係ない。
「…ん〜、この間の、ハイーラに連絡取った日だね〜」
「…あんた、その日のうちに私へ連絡してきたわけ?」
「保護してすぐではないよ〜?」
明らかになる事実に、思わず手が止まる。
自身が会って間もない子を、その日のうちにベリアスからアスティアノへ連れてきたのか。
ーーーまた随分と勝手なことをする。
…ハイーラ絡みのことでは遠慮を知らないマールらしい、といえばそうだが。
「…まぁいいわ。じゃあ、あの日の周辺の記録を見れば良いのかしらね」
自分がペルセと出会った日から、少し遡った日付のログを探し出し、中身を手早く見る。
ーーーハッキリ言って、ほとんどのものは、代わり映えのしないデータであった。
テンプレートに当てはめたかのような文章、グラフを貼り付けており、何も捻られていない。見る側としては助かるが、データの管理としては大丈夫なのか。
ーーーそう思いながら、日付を徐々に遡ると、一つだけ、おかしなデータがあった。
これまで見てきたデータにあったグラフ。全体的に見ると、今までとほとんど変わらないものだった。
ーーーただ、一点を除いて。
「…何よ、これ…」
「うわ〜…これは…」
ほんの一瞬の、強すぎるピーク。データに記録されてるのは、わずか数秒間の変化ではあったが、明らかな乱れを示すグラフ。
このピークが意味することは、何なのか。ハイーラにも、隣にいるマールにも、それは分からない。
分かるのは、このデータが異常値を示していること。それだけであった。
「この乱れがペルセ由来なんだとしたら〜…そりゃあ、ベリアスでも、一瞬とはいえ、大きな魔力乱れを感じ取れるわけだよね〜…」
隣でデータを眺めているマールが、何だか納得したように頷いている。
その一方で、ハイーラ報告書の内容を食い入るように見つめている。
ーーー明らかな異常値にも関わらず、文章はほとんど変わっていない。この魔力乱れも、突発的なものとして処理されている。
どう見てもおかしな話だが、これを修正する権限も理由も、自分にはない。
「…結局、役には立たない、か…」
「ベリアスのデータにアクセスできないの〜?」
「…探してみる」
ハイーラはダスノムのデータから一度離れ、ベリアスのデータに入ろうと試みた。しかしーーー
「…ダメね。ベリアスのデータに、アクセスできないわ」
「え〜」
「ダスノムまでしか調べられないようね…私達じゃ」
モニターには、無機質な「アクセス不可」の文字が踊っている。アスティアノの悪魔の権限では、ベリアスのデータにアクセスすることはできないようだ。
マールは不満そうだが、実際にできないのだから仕方ない。
「…結局、ダスノムで何かあったかも、くらいしか分からなかったわね」
モニターを消し、ハイーラは疲れた様子で背もたれに寄りかかる。
結局、何が要因なのか。
ペルセとアンドレイスの間に、一体どんな因縁があったのか。
結局、ペルセを治療しつつ、彼女が目を覚ますまで、待つしかない。
…それが、とんでもなく、もどかしかったーーー。




