知るはずのない敵
「…マール…この子、一体何なのよ?」
ペルセをベッドに寝かした後、再度マールに聞いた。
あの感じは、絶対に普通ではない。
「………ん〜…何なの、といわれても〜………」
魔力を自己回復に回してる分、普段よりもマールの応答が鈍い。ただ、言葉が聞こえてないわけではないようで、困惑気味に返事をしてきた。
軽く、寝ているペルセに目を向ける。その顔は、どう見ても無垢な少女の顔だ。
しかし、先程の光景を目にして、それが本物なのかどうかも分からなくなってきている。
「…質問を変えるわ。…何でアンドレイスがあの場にいたの?」
「……あんど、れいす……」
「アンドレイスの名前は、聞いたことあるでしょ?」
「……あ〜……アイツ、アンドレイスだったんだ〜」
マールは、アンドレイスのことを詳しくは知らないようだ。…まぁ、マールもベリアスに住んでからかなり経つし、無理もないかもしれない。
しかし、あの異常者がなぜペルセ達の元にいたのか。状況次第では、マールにお仕置きをしなければならない。
「…最初に確認しておくけど…。あんた、ペルセちゃんがダスノムの生まれだ、ってこと、他所で言ってないわよね?」
「………酷くな〜い?いくらなんでも〜…私の口は、そこまで軽くはないよ〜?」
「…そうよね。疑ってごめんなさい」
「も〜…」
マールは、口を尖らせてきた。ハイーラとて、マールが口を滑らせたなどとは欠片も思っていない。
とはいえーーーなおのこと、アンドレイスがあの場で倒れていたことが不可解だ。
「…たださ〜…」
少し考え込みながら、マールが口を開いた。
何か、知ってることがあるのか。ハイーラは、一度口をつぐみ、耳を傾けた。
「…何だか、最初から…ペルセがダスノムの生まれだ、って、分かってるっぽかったよ〜」
「…は…?」
一瞬の静寂。家のきしむ音が、やけに大きく聞こえた。
ーーー衝撃の事実だった。
ペルセのことを、最初からアンドレイスが知ってた?
あの異常思考の持ち主が?
「ど、どういう、こと…?」
「…詳しくは、私も分からないけど〜…。何だか、一度会ったことがあるっぽい感じだったよ〜」
ーーー余計に分からなくなった。
アンドレイスの考えは、アスティアノの中で神聖な悪魔は一部で、それ以外は下等、というものだ。アスティアノに住まう自分達サキュバスさえも、見下しの対象だ。
ましてや、ダスノムの生まれの者が相手となるとーーー
「…知ってるんなら、あの男が、生かしておくはずが…ないわよね」
「ん〜…私にも敵意は向けてたし殴ってきたけど〜…ペルセに向けてたのは…アレは、憎悪と殺意に近かったね〜…」
アンドレイスには、実際に見下してる対象を消した、という噂も絶えない。子供だからといって、見逃すような性格でもない。
にも関わらず、ペルセはこうやって生きてて、マールに拾われている。
「…ねぇ、マール…」
「ん〜?」
「…ベリアスで、この子に何かあったの?」
マールはなにか知っているのか。一縷の望みをかけて、質問をしてみる。
マールはなにか思い出すように、天井に視線を向けた。
「ベリアスでも確かに、この子が要因の魔力乱れはあったね〜」
「…そう…じゃあ…」
「似てはいたけど〜…あの時とは、まるで質が違うよ〜」
…納得しかけたのに、ぶち壊しだ。
でも、考えてみたら、当たり前だ。ベリアスでアンドレイスに襲われてたんだとするなら、マールがあんなのんびりした調子で、自分に連絡を取れるはずがない。
「…なら、何なのよ…」
「う〜ん…私も分からないね〜。でも、どこかで会ってたのかもね〜…」
ハイーラは頭を抱えた。一体、二人の間に何があったのか。ペルセが目を覚まさないことには、解決策は見出だせないのか。
「…あと、考えられるとしたら〜…ダスノムで何かあった、とか〜?」
「え!?…そんなこと…」
マールは深く考えていないのかもしれない。しかし、その視点はなかった。
「…ちょっと〜、適当に言っただけーーー」
「いや…有り得なくはないわ。あの、異常者なら…」
やりかねない。
あのイカれた思想を持つアンドレイスなら。
劣等の極みであるダスノムを、
ーーー滅亡させることも。
「…調べてみる必要が、ありそうね」
そう呟き、寝室から出ていった。




