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最底辺の悪魔は世界を見る~ペルセの旅路~  作者: ルゥナ
第二章 上位の町・アスティアノ
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最悪の残滓

「はっ…はっ…!!」


 街灯の消えてしまった通りを、一人の少女が駆け抜けている。

 燃えるような赤い髪が、たなびいている。


「マール…ペルセちゃん…!!」


 ハイーラは、鬼気迫る表情で、自分の家に向かって走り続けた。


 前方には、高く昇る、白い渦が見えた。


 ーーー明らかに、ただ事ではない。


 空気が、いやに重い。


 あまりの異常事態に、転送陣を敷いて帰ろうとした。しかし、何回やってもなぜか魔力を『外に出せなかった』。


 ーーーまるで、魔力そのものを『封じられてる』かのようだった。


 走ってる間も、暗い魔界の空が次第に、白い何かに汚染されて明るくなっていくのが見える。それに伴い、アスティアノの魔力が追いやられている流れを、肌で感じた。


 中心にある渦が、ますます大きくなってるような気がする。


 ーーーこのままでは、アスティアノそのものがーーー


「…急がないと…ッ!!」


 ハイーラは一層、全力で走り出した。


 悲鳴が飛び交う中、逃げ惑う悪魔達を押しのけ、ハイーラはようやく、自身の家の前に到着した。


 ーーーそこで見た光景に、思わず息を呑んだ。


「…何よ…これ…!?」


 家の周りを囲う柵が破壊されている。だが、そんな被害は可愛いものだった。


 マールが柱に寄りかかっている。明らかに殴打痕があり、吐血もしている。すぐに治療をしなければならないだろう。


 しかし、何よりも目についたのはーーー


 庭の中央で、白色の何かを纏って、ふらつきながらもその場に立っているペルセだった。


 ペルセも、マールと同様か、それ以上の怪我をしているように見える。明らかに、動けるような状態ではない。

 そんなペルセは、冷たい視線で、足元を睨むように見下ろしている。


 その視線を辿ると、一人の男が倒れている。


「…ッ!?…まさか、コイツは…!?」


 ハイーラは、その男に見覚えがあった。


 ーーーアンドレイス。

 過激な差別・選民思想で、アスティアノの中でも悪い意味で有名な男だ。アンドレイスは、ペルセの足元で、完全に意識を失っている。


 こんな男が、一体何をしたのか…。


「う…」


 ペルセの苦しそうなうめき声で、ハイーラの思考は現実に戻された。

 ペルセの足元が揺らぎ、その場に倒れそうになる。同時に、纏わり付いていた白色の何かが一斉に霧散した。


「ペルセちゃん!!」


 ペルセが倒れる前に、ギリギリで体を支えた。


 ーーーやはり、軽い。

 こんな子供の体から、あの白い力が出たのか。


 あの白いのは、一体何だったのか。

 あんなものは、初めて見た。


 ーーーいや。

 今は、それを気にしてる場合ではない。


「とにかく、治療しないと…」


 ハイーラは体内で魔力を練り上げ、それを使いペルセを治療しようとした。しかしーーー


「…アレ?」


 治癒のための魔力が、ペルセに届かない。いや、届かないというより、まるで拒否されてるかのようだ。


 ーーーどういうことだ。


 助けを求めるように、周りを眺める。しかし、先程まで場を支配していた、あの白色の力は、まるで元からなかったかのように、完全に存在が消えている。

 空も、元々の暗い魔界の空に戻っていた。


「…弾かれてる?…いや…違う…。そもそも…触れられて、無い…!?」


 周りを見ても、特に自分の魔力が弾き飛ばされた様子もない。確実に、ペルセの体に届いているはずだ。

 にも関わらず、効果が表れない。ペルセ自身が、自分の魔力の侵入を、拒んでるように。


「…考えてても仕方ない。ともかく、まずは…」

「ハイー…ラァ…」


 ハイーラは頭を切り替え、ペルセを肩で支えた。それと同時に、テラスの側で倒れているマールの、とぎれとぎれで、苦しそうな声が耳に入った。


「…こっちはこっちで、ひどい怪我ね…」


 マールに近付き、怪我の様子を確認する。ペルセほど酷くはなさそうだが、それでもやはり、大きな怪我だ。

 先程ペルセに届かなかった治癒魔力を練り上げ、マールにぶつけてみる。応急処置程度なら、これでも十分だ。


「う…」


 ーーーマールの傷は、ひとまず本人が動ける程度には修復できたようだ。

 なぜ、これがペルセには届かないのか。余計に分からない。


「いててってて〜…あ〜…ありがと〜…」

「話してる場合じゃないわ。まだあんたの傷も完治してないから、中でちゃんと治しなさいよ」

「やってくれないの〜?」

「自分の魔力でやりなさいよ」


 ペルセのことで頭がいっぱいだ。今、こんなズボラなヤツに構ってる余裕は、正直言って、ない。

 少し投げやりな対応になってしまったが、マールにはこれで大丈夫だろう。


 ハイーラはぐったりとしているペルセを抱え、マールと共に、家の中へ入った。

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