拒絶の一撃
周囲の魔力がどんどん逃げていく。魔力で照らされてた町の街灯が次々と消えていく。
白色の渦に飲み込まれ、町が、機能を止めていく。
「な、なに!?明かりが…!?」
「おい、どうなってるんだ!?」
アスティアノの悪魔達の、パニックに陥る声が聞こえる。
ーーーこれは、異常事態だ。このままだと、ただでは済まない。
ペルセの体から、白色の渦が立ち上っている。
天高く。どこまでも。
ーーー眩しい。
魔界にあるはずのない、明るく白い渦。
その白い渦が、魔界の暗い空をも照らしているかのようだ。
もしこんな状況でなければ、その神秘的な光景に見惚れていただろう。
「ダスノムの、ゴミが…ッ!!」
男は何度も、腕や脚に魔力を込めようとしている。しかし、魔力を込めようとした瞬間、外に出た魔力が、ペルセの放つ力で霧散させられる。
この空間では、魔力が『使えない』。
ーーーいや。
ペルセの力が、アスティアノの魔力を、『上書きしている』。
マールには、そう写った。
ペルセがゆっくりと顔を上げる。
とても動けるような状態ではないはず。にも関わらず、ペルセは男に視線を向ける。
その表情は、見たことのない表情だった。
ーーー純粋な、怒り。
口から、頭から、血を流しながらも、その目は男をしっかりと捉えている。
「ペル…ッ。ぐぅっ!!」
明らかにペルセも正常ではない。
そう分かってても、痛みで動けず、見守ることしかできない。
ペルセは表情を崩さないまま、一歩一歩、確実に、男との距離を詰めていく。
獲物を追い詰めていくかのように、じっくりと。
「…ッ!!テメェのようなゴミガキ、魔力なしで、素手でブッ殺してやる!!」
もはや、男は異常事態でまともな思考ができていないようだ。
ーーーアスティアノでも、魔力に頼らず、己の肉体のみで戦える悪魔など、ごく少数しかいない。
しかし、男にとって、それは関係ないのかもしれない。
ダスノムから来た悪魔を消すーーー頭の中には、それしかないのだろう。
「くたばれ、ゴミが!!」
男がペルセに向け、拳を振り上げる。
憎悪のこもった、醜い表情で、ペルセに殴りかかった。
しかしーーー
それすらも、男は許されなかった。
「な…っ!?」
男の動きが、不自然に止められる。
白色の渦が、男の体を覆っている。まるで、ペルセを守るように、男の体を抑え込んでいる。
間違いない。
アレはペルセの力ーーー。
だとすると、一体、あの子は何者なのかーーー。
「テメェ…ッ!!ゴミのくせに…ッ!!この、俺様を…ッ!!」
男は何とか、拘束を逃れようと藻掻いている。しかし、指一本動かすことができない。
ペルセはそんな、無様な姿の男に、ゆっくりと視線を向ける。目の奥には、先程よりも強い怒りが見える。
「…ユル、サナ、イ…」
ペルセの口元が、わずかに動く。
その声色は、今まで聞いてきた、無邪気さの残る子供の声ではない。
ーーー冷たい声だった。恐ろしいほどに。
ペルセは、ゆっくりと自身の右拳を振り上げている。
白色の渦が、ペルセの右腕に集まっていく。
ペルセの右腕が、一際白く輝いている。そこに太陽ができたかのように、煌々と。
あんな力を込められた状態で、殴られたらーーー
もはや、想像もしたくなかった。
「…ユルサナイ…!!」
ペルセの目が、男を射抜く。
次の瞬間ーーー
その拳が振り下ろされた。
ただの子どもの一撃なら、大したことはない。しかし、その威力はーーー
「わっ…」
男の顔面に、ペルセの拳がめり込んだ。
激突の瞬間、空気が大きく弾けた。
この感覚ーーー強大な魔力由来の、衝突の余波だ。
これほどの衝撃波、感じたことがない。あまりにも、凶悪だ。
男の顔は、大きく損傷している。あの様子だと、頭蓋骨の一部が砕けていそうだ。
あの小さな体のどこに、そんな力があったのか。
ペルセは殴りつけた勢いのまま、男を地面に、勢いよく叩きつけた。
叩きつけられたその地点から、大きく地面に亀裂が走る。ハイーラの家の庭、ほぼ全域に広がっていた。
…これは、後でハイーラに謝らなければならない。
あまりに現実離れしている光景に、マールは別のことを考えていた。




