ミノトたちとの別れ
来てしまった。
大好きなイアノが、迎えに来た。
それは、ミノトとの長いお別れの時が来たことを意味している。来てほしいのに、来てほしくなかった。
「…ペルセちゃん、帰りますわよ」
「やだ…もうちょっと、お話する」
普段はイアノが来たら、特に抵抗することなく甘えるところだ。だが、今回ばかりは、譲れなかった。
ミノトはすでに涙をポロポロと流しているし、ダリスも顔を伏せていて何かを堪えてるように見える。二人とも、この時間をまだ惜しんでることが分かった。
「ペルセちゃん…」
「…ダメ?」
「…そんな表情をしないでくださいまし。それでダメだなんて、言えるわけがありませんわ」
ペルセがイアノを見つめると、イアノも何だか我慢してるかのような表情を浮かべた。
ーーー自分の安全をとるためには、仕方のないことだとは理解している。だが、それでも、こんなのはイアノでさえも望んでいなかったことなのだろう。
そう思うと、余計に胸が締め付けられた。
「ペルセちゃぁん…!」
泣きながら、ミノトが駆け寄ってきた。そして、ペルセの手を、自身の両手で包みこんだ。
涙を拭ったせいか、お互いの手が少し湿っていて、生温かい。だが、その温かさが、余計に切なさを加速させていた。
「また、会えるよね…?私達のこと、忘れないよね…!?」
「…うん…忘れないよ。ミノトのこと、ダリスのこと…エストラの、皆のこと…ッ!!」
もう、我慢ができない。
とうとう、ペルセの目から涙がこぼれ始めた。
涙で視界がぼやけてくる。それでも、涙は次から次へと溢れてしまう。
「ペルセ」
すると、ダリスの声も聞こえてきた。普段の冷静で凛々しささえおぼえる声色とは違う、震えた声だった。
だが、もうそちらを見ている余裕などなかった。
「トロールの一件では、お前に助けられたな。そのことに関して、まだ礼を言っていなかった。…ありがとうな、ペルセ」
「ダリス…」
「…俺もお前に、人間以外の種族のこと、色々と教えたかったよ…」
ダリスはそう言いながら、ペルセの肩に手を置いてくる。毛むくじゃらで、大きな手。いつもより力が強く、しかし震える手であった。
ペルセは涙を拭き取る。まだこぼれ続けていたが、視界が少し晴れて、状況が確認できるようになった。
ミノトが自分の手を握り締めて泣いており、ダリスが自分の肩に手を置いたまま、俯いている。
ーーー二人とも、自分と同様に、感情が処理しきれていないようだ。
「…ペルセちゃん。本当に時間ですわ。そろそろ戻って、魔界へ帰る準備をしなければ」
「うん…」
だが、時間は残酷だ。
無限にこの時が続くわけではない。それは、承知の上であった。
イアノに告げられ、ペルセは惜しみながらもミノトの手を離し、イアノの元へと向かう。
ミノトが手を伸ばそうとしていたが、ダリスに止められたのか、その手は空を切ってしまっていた。
「ペルセちゃん…うっううっ…」
「ミノト…」
泣き崩れるミノトを、ダリスが慰める。感情のまま振る舞うミノトをダリスが止めるという、いつもの光景。
だが、今日は何だか、その光景が物悲しく見えてしまう。
「ミノト…ダリス」
「…何だ?」
「バイバイ…また会おうね」
「…………あぁ」
ペルセはそう言いながら、二人に手を振った。
ミノトはもはや、こちらを見ることすらできていない。ダリスでさえも、今にも泣きそうな表情で、何とか手を振り返してきていた。
「…行こっか、イアノお姉ちゃん」
「えぇ…」
ペルセはイアノと共に、家路へとついた。
ペルセは二人に背を向けることなく、ダリス達の姿が見えなくなるその瞬間まで、ずっと二人に向けて腕を振り続けるのであった。




