溢れる惜別の情
翌日。
エストラの五年三組は、朝から騒然としていた。
朝の会では、大人っぽくて冷静なダリスが唖然とし、クラスの中心でずっと騒がしいミノトでさえ言葉を発することができないでいた。
今週いっぱいまでいる予定だったペルセの留学が、今日で終了する。その予定外の衝撃が、クラスを包んでいた。
昼休みに入ってもなお、ペルセの周りにクラスメイト達が集まっていた。
「ペルセちゃん!!今日でお別れなんてやだよ!!今週末も遊びたかったのに!!ダリス入れて三人で!!」
「巻き込むんじゃねぇよアホ!!…だが、一度くらい、遊びに行きたかったのも本音だな」
涙を流しながら抱きついてくるミノトと、対照的に冷静なダリス。そしてその二人を見ながらも、ペルセの周りで別れを惜しむクラスメイトたち。
皆、魔界から来たペルセのことをペルセとして受け入れてくれ、仲良くしてくれた者達だ。
「どうするんだよ…寄せ書きとか、何も準備できてねぇってのに…」
「お別れ会もできないわよ…」
クラスメイト達の中から、戸惑いの声もあがってくる。ペルセも知らなかったが、留学終了予定日に合わせて、色々と企画してくれていたらしい。
ーーーだが、それも全ておじゃんとなってしまった。サトゥニアの話では、一時的に帰すだけ、という話であったが、この時間はもう、もとには戻せない。
その事実が、ペルセの胸にも深く刺さってしまった。
「私も、寂しい…!ミノトぉ、もっと人間界の遊びを教えてよぉ…!!」
「教えたかったよぉ!もっと面白い遊び、あるんだから!ウサギでも、スイーツでも、プリクラでもない、他の遊びが!!」
「行きたい!!行きたいよ!!」
だからこそ、抱き着いてくるミノトを、ペルセは強く抱きしめ返した。
予定通りのお別れ日だったら、こんな感情に流されるようなことはなかったかもしれない。だが、昨日急に決まってしまった以上、心の準備も何もできなかった。
「…何で中止なんだよ…先生も口を濁すし、納得いかねぇ…!大人の事情ってやつかよ…」
そんな中で、ダリスが不服そうに唸る。
狼の獣人ゆえ、唸り声が完全に獣のそれだ。だが、そんなことを気にしてる場合でもなかった。
「私も正直、よく分かってない…。でも、私や他の悪魔をも狙ってる人達が、いるんだって…」
昨日の会合のことを、そのまま言うわけにもいかない。ましてや、朝の会でラウラですら誤魔化したことを、自分が言うことなんてできやしない。
「それ誰!?警察に相談しないと!!」
「…ごめん、言えない。そればっかりは、言えないんだ…。私は留学生だから、警察がどうだとか、そういう次元の話でもないんだよ…」
「そんなぁ…!!」
ミノトが尋ねてきたが、誤魔化すしかなかった。こればかりは、胸が痛むがこうするしかない。
抱きつく力が強くなる。それに伴い、ペルセの腕にも自然と力が入る。
「やだぁぁぁぁ!!まだ離れたくないよ、ペルセちゃん!!」
「…離れてやれ、ミノト。辛いのは、お前だけじゃねぇよ…!!」
皆から受ける、寂しいという感情。魂魄の揺らぎを通じ、嫌でも伝わってくる。
それが、余計に辛かった。




