論理の反射
サトゥニアはゆっくり、木の箱を開き、中身を取り出す。
中には、淡い魔力の紫光を放ち続ける、小さな欠片がある。これが、今日の会合前にサトゥニア達が言っていた、『餌』なのか。
「…ペルセ。あと一週間の留学だが、明日をもって最終日とする」
「えっ…!?そ、そんな…!!」
サトゥニアから放たれた言葉は、あまりにも残酷だった。
あと一週間、ミノトやダリスと一緒にいれると思っていたのに。ダリスを入れて、三人で遊びに行きたかったのに。
あまりの衝撃に、ペルセは呆然とサトゥニアを見つめてしまう。
もちろん、理由そのものは分かる。こんな組織が隣にいては安全性が、とか言うつもりなのだろう。話し合いにまで参加したのだし、それが分からないほどペルセもバカではない。
ーーーだが、あんまりだ。
「魔王様…!理屈は分かりますが、それではあまりにも…!」
「安心しろ。『一時的に』帰還させるだけだ」
イアノが抗議の声をあげる。だが、それに対するサトゥニアの言い方に、どこか気になる含みがある。
一時的に、とはどういうことか。サトゥニアの中で、何か作戦があるのか。
ーーー少し我慢すれば、またミノトと学校で会えるのか。ほんの少しの希望を持って、サトゥニアを見つめた。
「ラウラとやら。先に詫びておく。手土産を渡すタイミングが、遅れることになる」
「お構いなく。対価が欲しくてペルセさんを預かってるわけではありませんので」
「…助かる」
サトゥニアはそう言うと、手に力を込める。すると、手に持っていた結晶が、バラバラに砕け散ってしまった。
「な…!?」
レボルタはその様を見て、今日一番の驚きを見せていた。
ペルセにはそんなレア物には見えないのだが、サトゥニア達が『餌』と呼ぶだけあって、それだけ欲しがっていたものなのだろうか。
「レボルタ・ドゥローラ。犯罪者は、自国民であれば自国に送り返すべきである。貴様はその認識をしてる、ということで間違いないんだな?」
サトゥニアはそれでも感情を荒げることなく、目の前にいるレボルタに問う。
レボルタは一瞬唖然としていたが、すぐに調子を戻したのか、また先程までの無礼な表情に戻った。
「当たり前だ。なぜ自分の国の民を、他所の国が裁けるというのか」
「…そうか」
サトゥニアはそう言うと、ゆっくり立ち上がる。
ーーー視線が、「帰るぞ」と言っている。ペルセとイアノはそれを察し、慌てて立ち上がる。二人に続くように、ラウラもゆっくりと立ち上がった。
サトゥニアはレボルタ達に背を向け、ゆっくりと歩いている。その表情からは、何を考えてるのか読み取ることはできない。
分かるのは、強い憤怒と失望。それだけだった。
「ソロモニアがドゥローラへと連れて行った悪魔の身柄、こちらに返してもらう。魔界から追放した悪魔だったゆえ、こちらも黙認していたが…貴様の論理であれば、国外追放という罰は、認められないようなのでな」
「…は?」
サトゥニアはそれだけ言い残すと、そのまま応接間を出ていく。ペルセも、ヨルゼフとレボルタの反応を聞くことなく、サトゥニアについて出ていくのだった。




