子供の失望
嫌な空気だった。
誰も何も、発言しようとはしない。ただ一人、レボルタだけがニヤニヤと笑っているのが、ペルセにとっても最高に不愉快だった。
そんな空気を読めていないのか、レボルタはそのまま言葉を続ける。
「ソロモニアはそもそも、悪魔の力を含めて、さまざまな魔術や運用を持って、国家運営や技術開発を行う組織なんだよ。そんなものを解体など、するわけなかろう」
「…ではなぜ、我が国で犯罪犯したソロモニアの組員を引き渡せ、と?」
「逆に聞くが、なぜ貴様ら猿の国が、我が国の宝を捕らえる資格があるのだ?」
ヨルゼフの問いに、レボルタは当たり前のように聞き返してくる。
本気で言っているのだとしたら、大分おかしい。政治に詳しくないペルセであっても、それだけは分かった。
すると、ラウラがしかめっ面のまま、静かに口を開いた。
「…その組織に誘拐されかけた子どもが目の前にいるのに、よくそんなことが言えますね。罪は罪で、犯した場所の法律に反したから裁かれる。ただそれだけですよ」
その表情も声色も、心底不愉快そうな様子だ。
だが、無理もない。話の中身を完全には理解できてないペルセでさえ、気分のいいものではない。恐らく自分の表情も、ラウラ同様に歪んでいるかもしれない。
ラウラももちろんだが、自分とイアノも襲われたのだ。それにも関わらず、レボルタは裁かず送り返せ、と言っているのだ。当然、許せるはずはない。
だが、レボルタはラウラのその言葉に対しても、鼻で笑うだけだった。
「…ソロモニアの組員をこちらへ返さぬというのならば、こちらは力尽くで奪い返すことも辞さぬ。貴様らは、我が国の内政に干渉してることと同義なのだからな」
「…レボルタ陛下、アナタは戦争でもするつもりか…!」
レボルタの言葉に、ヨルゼフの顔が青くなる。
その一方で、レボルタは強気な態度を崩していない。
まさか、勝てるとでも言うのだろうか。戦争で勝てば、要求を通せるとでも思ってるのか。
ーーー同じ人間界で暮らす者同士で、仲良くできないのか。
ペルセは、そんなことを考えていた。
「…あの者たちは…ラウラさんを襲撃し、私達を誘拐しようとしたあの者達は、罪人ですらない、と…?」
「組織の暴走があったことは認めてやる。だが、それだけだ。この世界は人間のもの。それ以外は異物だ」
レボルタの言葉に、イアノが冷や汗をかいている。
ペルセは、レボルタが何を言っているのか分からない。
いつも落ち着いていて、博識なイアノでさえ、レボルタの言ってることが理解できていないようだ。
「…ねぇ…何でそこまで、意地を張るの?ヨルゼフさんは、自分が悪いことしたわけじゃなくても、謝ってくれたよ?何で…同じ、人間界の住人同士なのに…仲良く、できないの…?」
「ペルセ…」
思わず、悲痛な一言が出てしまった。
ここまで蔑まれてしまうと、悲しくなってしまう。 この場で命の危機を感じたわけでもない。ゆえに、あの時と同じーーー捕らわれたアンドレイスを見た時と同じ、滑稽さを感じる。
ペルセの言葉を聞いたサトゥニアが、複雑な顔でこちらを見ている。
サトゥニアにそんな顔をさせたいわけではない。だが、言わずにいることはできなかった。
「悪魔のガキ。一つだけ教えてやる。お前らは結局、どう転んでもこの世界じゃ『使われる』側。その立場は、何をやろうと、どんな者だろうと、『人間でない』という一点だけで決まるんだよ」
レボルタはペルセをまっすぐ見つめることすらなく、むしろ見下すような視線を向けてくる。
それは違う。そう言いたいのに、口は動かない。
人間界に来てから、人間のラウラやミノト、悪魔のヴァーレア、獣人のダリス、エルフのエルフィー、そして国王のヨルゼフ。色々な人間界の住人がいたが、その誰もがペルセをペルセとして扱ってくれた。
なのに、ダスノム生まれというだけで自分を差別してきた、あのアンドレイスのような男が、ここにもいるのか。
「…よく分かった」
すると、サトゥニアが重苦しい口を開いた。




