最悪の空気
元々ピリピリしていた空気が、一瞬にして凍る。
ヨルゼフもラウラも、サトゥニアもイアノも。
そして、ペルセも。何も、言葉を発することができない。
ただ一人、渦中のレボルタだけが、不思議そうに首を傾げている。
「国の資料を確認したら、あんた俺らの召喚した悪魔、そいつを奪って逃げたそうじゃねぇか」
レボルタはそう言うと、腕組みをし、ため息をつきながら背もたれに寄りかかる。
そして、呆然としている面々に向け、平然と言葉を続けた。
「ソロモニアが動いた要因の一つは間違いなくラウラ、お前だ。俺にソロモニアの管理責任を問うというのならば、まずラウラのことに関しての説明と詫びがいるだろうが」
そう言うと、やれやれとでも言いたげに、レボルタは首を振った。
ーーー意味不明だ。
ラウラはソロモニアに襲われた、被害者だ。だが、聞き間違いでなければ、目の前の男はそんなラウラに謝罪を求めている。
なぜだが、かつて自分をダスノム生まれというだけで徹底的に見下し、殺そうとしてきたアンドレイスという男が、ペルセの頭の中を過った。
そんなアンドレイスと同等、下手をするとそれ以上に、レボルタの言ってることの意味が分からなかった。
隣に座っているサトゥニアが、とっさに口を開こうとした。だが、それよりも先に、イアノが静かに口を開いた。
「…よくそんなことが言えますわね。誘拐された悪魔の姉の前で」
「あ?」
そのイアノの声は、まさに絶対零度。ソロモニアと直接対峙したときと少し異なる、怒りのあまりに冷静になってるかのような声色だ。
レボルタの返事に、特段イアノは反応することなく、淡々と言葉を続けた。
「その論理で返すとするなら、悪魔本人の意志を無視して、魔界から誘拐同然に召喚したアナタにも説明責任が生じますわよ」
「…はぁ…」
そんなイアノの言葉に対して、レボルタは心底呆れたようにため息をついている。
一体、何を言う気なのか。ハラハラしながら、レボルタを見つめていた。
「悪魔本人に意志?必要ねぇだろ。人間界に呼び出されたんなら、傀儡になるに過ぎねぇだろ。ここは人間の世界だ、人間以外の種族は人間の奴隷だ。そっちの世界でも、悪魔以外の種族はそのような扱いをしている、違うか?」
レボルタのその言葉に、ペルセですら頭に血がのぼる感覚を覚えてしまう。
自分が魔界から人間界に留学に来て、ミノト達含めたエストラの生徒達と仲良く暮らす。留学期間中という限定的な期間であるとはいえ、それすらも否定してくる、レボルタの言葉。
ーーー怒りの感情を抑え込むのが、大変だった。
「…その話は今すべきことではない。イアノもペルセも落ち着け」
「しかし…」
「この男の考え方を糾弾しに来たわけではない。腹立たしくはあるが、この会合の目的はソロモニアについてだ」
だが、サトゥニアは冷静だった。
内心で強い怒りを抱えているかもしれないが、表情には全く出ていない。
魔王であるサトゥニアから諭され、イアノも渋々引き下がった。
「…あんたのお子様な価値観などどうでもいい。今話をしたいのは、あんたの国にあるソロモニアという組織について、どうするかだ」
「どうするも何も、残すに決まってらぁ。人間界で愚かな悪魔が生きたいというのなら、召喚術式や契約術式に関して研究し続けてるソロモニアは、むしろ必須な組織だろ」
サトゥニアの冷静な問いに対し、レボルタは嘲笑しながら答えるのだった。




