ドゥローラ国王・レボルタ
その日の夕方。
ここは、エスカンの隣国・ドゥローラ。
休日ということもあり、城下の繁華街では大勢の国民達が行き交い、賑わっている。
だが、その数多ある露店の中には、それに見合わない大きな檻が複数置いてある店も目立つ。その中には、どこかで捕らわれたと思われるボロボロの姿の男性エルフや、拘束されながらも檻の中で激しく暴れる猫の獣人等、様々な種族の人外が捕らえられている。
「お、らっしゃい!今日は活きの良い獣が入ってきてます!サンドバッグにしてもよし、肉体労働のコマとして使ってもよしですぜ、旦那!」
「お、そうだな…」
しかし、道を行き交う国民達は、そこに疑問すら抱く様子はない。
人間至上主義。人間以外の種族は人間に使われる下等な生き物に過ぎない。
ーーーこれが、ドゥローラという国に長年染み付いた文化であった。
そんな繁華街の中心部へと向かうと、一際大きな城壁に囲まれた、王宮がある。
数百年前から大きく変わらない、ドゥローラの王宮。夕日に照らされ、豪華な宝石がキラキラと輝いていた。
王宮の中は、数百年前より玉座の間周辺の廊下の装飾だけきらびやかになっており、あとの部分は経年劣化が隠し切れないほど風化している。
「…陛下、エスカン国王よりお手紙が届いております」
そんな玉座の間の中心で、玉座の前に伝令が駆け寄る。その様子を見て、玉座に座るドゥローラ国王ーーーレボルタ・ドゥローラは心底嫌そうにため息をついた。
「…あのサルが、一体何だってんだ」
レボルタは猿の獣人であるヨルゼフのことを、対等な存在として認識していない。今日もヨルゼフから呼び出しを受けていたが、あの男の話など、こちらに徳がない限り、聞く価値はない。
ーーー心の底からそう思っていた。
「魔界の悪魔側が陛下のお話を聞きたがっている、との話が来ております」
「…やはりな。あのサル野郎の持ってくる話に、価値はないな」
悪魔と話すことなどない。そう言わんばかりに、レボルタはため息をついた。
悪魔など、人間との契約で縛り付け、その魔力をもって自分達に奉仕させる、便利な道具に過ぎない。実際、ソロモニアの連中が連れてくる悪魔を使い、ドゥローラの政治は反乱を起こされる心配もなく、非常に繁栄している。
それだけの存在に過ぎない悪魔とも、話す価値はない。伝令の言葉を意識の外へと追いやろうとした。
だが、伝令の次の言葉で、レボルタの意識が一気にそちらへ向くこととなった。
「なお、手紙によると、エスカン側には悪魔の魔力が濃縮された魔力結晶が贈呈されるとか…」
「…何?」
悪魔の魔力結晶。それが本当にエスカン側にあるのならば、是非とも自分ももらいたい。魔力結晶があれば、より巨大な悪魔の魔力を扱うことができるようになり、ますます支配は強固なものとなる。ソロモニアの保持する悪魔達への支配も容易になるであろう。
「つきましては、明日午後3時より、会合を行うとのこと。その際に、魔力結晶が魔界から贈与される予定とのこと」
「私も向かう。あのサル頭に、悪魔の魔力結晶は扱いきれん」
魔力結晶は、魔力を濃縮したもの。人間の魔力を結晶化させたものでも、扱い方次第ではそれ単体で国一つを破壊するほどの兵器になりうる。
ましてや、悪魔由来のものだ。そんなもの、ヨルゼフの手に余る代物でしかない。ゆえに、より生かせる自分がもらい受ける。
レボルタはそう決意し、エスカンへと向かう準備を始めるのだったーーー。




