会合の一時終幕
「どうって、どうするのさ」
イアノの言葉に、真っ先に反応したのはヴァーレアだった。ヴァーレアは不思議そうな様子でイアノを見つめている。
「えぇ。来ない者に関してあれこれ言ってても、話は進みませんからね」
「…まぁ、そりゃそうだけどさ」
姉妹が二人で話していると、それに割り込むかのようなサトゥニアの咳払いが聞こえてくる。その声を聞き、ヴァーレアは慌てたように姿勢を正した。
「それで、ヨルゼフとやら。どうするつもりだ。ドゥローラとの交渉については、貴様が窓口になるしかないぞ」
「えぇ、もちろん交渉する文面は送りますが…正直、交渉テーブルについてくれる可能性は低いかと思われます」
「分かっている。ならば、連中が食い付く『餌』を用意してやるしかなかろう」
サトゥニアは顎に手を当てて考え込んでいる。だが、冷たい表情とは裏腹に、その魂魄の揺らぎから見える感情は、激しい怒りだった。
「ま、魔王様…。戦争でもされるおつもりですか…!?」
「戦争か…。サブリナ辺りなら喜ぶかもしれないが、さすがにそれをする気はない」
イアノが震え声で尋ねるが、サトゥニアの態度は変わらない。
戦争となって、サブリナが暴れたらどうなるか。魔力を使わず、肉体性能のみで全てを破壊し尽くすあの豪快ながらも情の深い悪魔が、人間界来て暴れたらどうなってしまうのか。
ペルセには、嫌でも想像がついてしまった。
「ラウラ…いや、今はヴァーレアだな。それとペルセ。貴様らは、どうしてほしい?ソロモニアという組織、そしてそれを有するドゥローラという国に対し、どういう対応を望む?」
サトゥニアはそう言うと、ペルセ達に交互に視線を向けてくる。
話の切り替えが急すぎる。いきなり言われてしまったので、ペルセは咄嗟に言葉が出てこなかった。
だが、ヴァーレアは比較的すんなりとまとまったらしく、すぐに口を開いた。
「…ボクとランちゃんの望む対応は、同じです。二度と魔界からの誘拐をできなくしてほしい。ボクのような悲劇を生ませないためにも…ソロモニアという組織を解体し、ちゃんとした国家運営をする。それが、ボクらの望みです」
ヴァーレアはサトゥニアを真っ直ぐに見つめながら、そう答えた。
「…そうか」
サトゥニアはそれに対し、短く返事をした。だが、サトゥニアだけでなく、ヨルゼフの方も確実に重く受け止めていることが分かる。そんな表情をしていた。
その直後、皆の視線がペルセに集まる。
このような場で皆に見つめられるのは、あまり居心地が良くない。
ペルセは、緊張で震える口をゆっくりと開いた。
「私は…」
ヴァーレアの言っていることそのものは理解できる。だが、そこにどんな意味があるのかまでは、ペルセには分からない。
ヴァーレアのように、取り繕ったり賢いことを言ったりすることは、自分にはできない。ペルセは己の考えを、そのまま口にすることにした。
「…私は、できることなら人間と仲良くしたい。悪いことをしたなら、ちゃんと謝って、償ってほしい」
だが、ペルセにはこれが精一杯であった。
しかし、その一言で、場の空気が一際重くなったように感じる。
サトゥニアもイアノもヴァーレアも、果てはヨルゼフでさえ、難しい表情を浮かべていた。
「…変なこと、言っちゃったかな?」
「いいえ。むしろ、そうなるように、私達が動きますわ」
ペルセが不安げに首を傾げると、イアノが優しく声をかけてくる。サトゥニアも小さく頷いている。
「…尚更、『餌』が必要だ。ソロモニアを、ドゥローラを交渉のテーブルにつかせるための、『餌』。何を用意すれば、連中は食いつく?」
「恐らくですが…」
サトゥニアはヨルゼフに、静かに尋ねる。それに対し、ヨルゼフが淡々と答える。
人間界と魔界の会合は、昼ご飯の時間を過ぎても行われるのだった。




