責任の所在
何が起きたのか、一瞬理解ができなかった。だが、この感覚を味わった記憶がある。
十年前。
まだ自分の素性が分からなかった頃。
ダスノムという魔界の最底辺から出てきて、ようやくマールやハイーラという、大切な家族ができ始めた頃。
魔王であるサトゥニアに呼ばれ、同じように頭を下げられた記憶が鮮明に蘇った。
『…大変だったろうに、お前に手を差し伸べることができなかった。全て、私の管理・教育の不足…私の責だ』
そう言いながら頭を下げてきたサトゥニアの姿と、今のヨルゼフの姿が、どこか重なった。
あの時は、意味が分からなかった。自分が何かしたらならともかく、直接何かしたわけでもないのに、なぜ謝ってくるのか。なぜ、頭を下げるのか。
ーーーだが、今なら少しは理解できる。これがまさに、『統治者として上に立つ』ということだ、と。
サトゥニアもヨルゼフも、上に立つ者としての責任を負っている。だから、自分の管理下で起こったことを、自分事として認識し、謝罪しているのだ。
ペルセですら理解できているのだ。サトゥニアなら、もっと深く理解していることだろう。ペルセはサトゥニアに目を向けた。
「…顔を上げよ。ヨルゼフ・エスカン陛下」
サトゥニアは険しい表情のまま、ヨルゼフへと呼びかけた。
ヨルゼフは言われるまま、顔を上げる。その表情には、不安が見え隠れしている。
だが、サトゥニアはそれを気にしていないかのように口を開いた。
「お前が謝るべきではない。強いてお前に非がありそうなところを言うならば、ソロモニア連中の不法入国を止めることができなかったことくらいだろう」
「…私達も、国内の安全が確認できたからこそ、ペルセちゃんを留学生として送りましたの。長年沈黙していた外国勢力の介入など、予想外でしたわ。こちらの想定も甘かった、と言わざるを得ませんわ」
「…それもそうだな」
ヨルゼフが何かを言いかけてたが、イアノが割り込んでそれを止めた。サトゥニアも、イアノの言葉に納得したようで、静かに頷いている。
ペルセも留学前に、念入りに防犯や護身に関する教育は受けていた。だが、外国勢力の介入に関しては当然、受けていない。しかしながらそんなもの、一体誰が予想できるというのか。
「…悪いのは、ソロモニアという組織と、それを止めるどころか、寄りかかろうとすらしているドゥローラという国だろう」
「それは…その通りです」
「国王が来ないのは言語道断だが…ソロモニアという組織の責任者だけでも来ないのか」
サトゥニアはそう言うと、ラウラの方へと目を向ける。だが、ラウラはいつの間にかヴァーレアに入れ替わっているようで、髪の色や雰囲気が変わっていた。
だが、いつもの明るい様子のヴァーレアではない。その言葉は、普段のラウラに負けず劣らずの冷静さだった。
「いやぁ…どうでしょうかね…」
「心当たりはないのか?」
「ボクもさすがにそこまでは…」
「そうか…」
ヴァーレアが困ったような様子を見せる。サトゥニアもそれを見て、肩を落としていた。
しばし、静寂。
誰も声をあげることなく、数分程度の時間が経過した。
「それで、エスカンとしてはこの事件に対し、どのように対応しようかと考えておられますの?」
そんな静寂を、イアノの冷静な声が破った。




