会合開始
「まずは、状況を共有します」
ヨルゼフはそう言うと、ペルセ達の前に資料を差し出した。
隣にいるサトゥニアに渡された資料は文字の密度が高く、読むのは疲れそうなものだったが、その一方でペルセに渡された資料は比較的読みやすいレイアウトで書かれている。
ーーーそれゆえ、その中身を見ると、状況が酷いものであることが理解できてしまった。
「隣国ドゥローラに拠点を置く、ソロモニアという悪魔崇拝組織。この組織が、数百年前にヴァーレアさんを、そして現在でイアノさんとペルセさんをも狙い、誘拐しようとした。サトゥニアさん、認識に齟齬はありませんか?」
「大丈夫だ。むしろ、簡潔にまとめてくれて、非常に助かる」
サトゥニアはその資料を静かに見ている。確認を取れたヨルゼフは、さらに説明を続けた。
「現在、ソロモニアはエスカンから撤退こそしていますが、組織そのものは残っています。先日、イアノさんが捕らえられた組員については、ドゥローラが引き渡しを求めています」
「…はい?正気ですの?」
その言葉に、イアノが不愉快そうな声を出した。
先日、ラウラを襲ったソロモニアの魔術師達。そいつらがどうなったかは知らなかったのだが、イアノがちゃんと、エスカンへと引き渡していたようだ。
しかし、それをさらにドゥローラが引き渡しを求めてる、ということか。ペルセには、あまりその意味を理解できなかった。
「国内で起こした重大犯罪の犯人です。無論、私とて罪を確定させ、償わせるまで引き渡しをするつもりはありません。そこも、ドゥローラの国王にこの会合で伝えるつもりだったのですが…」
ヨルゼフはそう言うと、円卓を見回す。何度見ても、この場にいる者以外の人間が来る気配は、微塵も感じられない。
ヨルゼフは失望した様子で、再び大きくため息をついた。
「…結果はご覧の通り。代々そうでした。昔からあの国の王は、自分に都合の悪い事件が起きると、交渉のテーブルにすらつこうとしない。…もう、二国間の問題だけでは済まない規模になってるというのに…」
そう言うヨルゼフの表情は、悔しそうでありながらも、どこか諦観も混ざったようなものだった。
「…そうか」
低い声が響く。ペルセの隣にいるサトゥニアが、かつてないほど冷たい表情をしている。
サトゥニアはミノトのように、コロコロと表情が変わるタイプではない。だが、そんなサトゥニアの冷徹な顔を見るのは、初めてだった。
「以上が、簡単な現状確認になります」
ヨルゼフは気分を切り替えたのか、疲れ切っていた表情を戻し、再びこちらを向いた。
ペルセもイアノもラウラも、資料を閉じてヨルゼフの方を見る。少し遅れて、サトゥニアもヨルゼフの方へと視線を向けた。
「折角、私共を信頼して、ペルセさんという留学生をお任せいただいたというのに、このような事態となってしまって…本当に、申し訳ない」
ヨルゼフはそう言うと、木の机に勢いよく額をぶつけて、頭を下げてきた。
ぶつかる音だけが、応接間内に響き渡っていた。




