ヴァーレアの挨拶と懺悔
ラウラは自身の過去を、ソロモニアとの因縁をデメナを相手に淡々と語った。
ペルセにとっては一度聞いた話であったため、驚きはあまりなかった。だが、話を聞いたデメナの顔は、険しいものとなっていた。
「…なるほど。あの事件の裏で、そのようなことが…」
デメナは自身の顎に手を当て、考え込んでいた。
ヴァーレアの誘拐事件は、人間界との交流断絶の決定打となった事件だ。だが、人間界側の事情までは、魔界にいたデメナも知らなかったのかもしれない。
「やはり、魔界でも大騒ぎに?」
「えぇ。イアノさんの妹さん…ゴエティフス家の次女が、唐突に行方をくらませ、見つかったと思ったら魔界ではなく人間界に誘拐されていたことが分かったわけですからね」
デメナがそう言うと、イアノが顔を伏せる。当時のことを思い出しているのだろうか。
数百年前。下手をすると、ペルセはまだ産まれてすらいない頃の出来事だ。それゆえ、ピンときにくくはあった。
ーーーだが、家族の愛情を、大切な人と離れる哀しみを知っているペルセには、イアノの辛さがよく分かってしまった。
だからこそ、余計にペルセは口を挟むことができなかった。
「行方をくらまして数ヶ月程度で連絡が取れて、生存は確認できたのが不幸中の幸いでしたわ。まさか、人間と契約を結んでるとは思いませんでしたが」
「姉様ぁ、ボクをちょっとは信じてよー」
イアノがそう言うと、いつの間にかラウラと入れ替わった様子のヴァーレアが口を挟んできた。
あまりに急激に人格が変わったのを見たせいか、デメナはまるで幽霊でも見たかのように驚いている。
「ボクはボクの意思で、ランちゃんと一緒にいるんだよ?前に会った時も、その話したじゃん」
「分かっていますわ。ですが、今その話をしてる場合ではないでしょう、デメナ様の前ですわよ」
「あ、そうだね」
デメナを放置してることを指摘されたヴァーレアは、改めて画面越しのデメナに向き合う。
二人の様子を見守っていたデメナは、そのやり取りを見て、何となく察することができていたようだ。
「初めまして、デメナ様。ゴエティフス家の次女で、今はランちゃん…ラウラと契約を結んで、人間界に暮らしているヴァーレアといいます」
「…はじめまして」
ヴァーレアはしずかに頭を下げる。普段はおちゃらけた印象であったが、ちゃんと真面目に挨拶ができるのか。そんなどうでもいいことを考える場面ではないのかもしれないが、ペルセはその事実に意識が向いてしまっていた。
「…今回、ボクらの因縁に、娘さんを…ペルセ様を巻き込む形となってしまいました。せっかく、ボクらを信用してくれて、大切な娘さんを人間界に留学に出してくれたというのに、このような事態になってしまって…」
「そう、卑屈にならなくとも大丈夫ですよ。むしろ今回、意図していたわけではないにしろ、人間界との交流を再開していくうえでの最大の障害が、向こうから自滅してくれたのですから」
ヴァーレアの謝罪に、デメナは淡々と答える。
母としての感情を、まるで感じさせない。ペルセから見ても完全に、魔界の最高幹部として話をしていることが分かる。
「…お母さん。魔界だと、ソロモニア?の人達をどうするって話になってるの?」
そんな今だからこそ、聞きたかった。ペルセは恐る恐る、デメナに尋ねることにした。




