崩壊の果てに、表れるもの
そんなオーレンを嘲笑うかのように、向かおうとしていた先の地面が、盛大に爆発した。
「ぐあっ!!?」
「ひゃぁっ!?」
直撃はしなかった。しかしながら、爆発の衝撃で、二人の体が宙を舞う。
静寂。永遠に飛び続けられるような錯覚。
---だが、次の瞬間、体に鈍い衝撃が走り、遅れて痛みがやってきた。
「いっ…!?」
「がぁ…ッ!!」
痛みで動けずにいたペルセの耳に、隣にいるオーレンの、苦しそうな声が聞こえた。ケガしていた左腕をおさえている。しかし、視線の先は…爆煙の中を、睨んでいた。
もうもうと立つ爆煙の中を、目を凝らして見ても、辺りに舞う塵が邪魔で、何も見えない。しかし、確実に何かいる。ゾッとするような、何かが。
「くっせぇな…。やっぱゴミ山の大将なんざ、悪魔の恥晒しだ」
煙の中から、男の低く、冷たい声が聞こえる。同時に、ゆっくりこちらに近づいてくる音も聞こえてきた。硬い何かが、地面をたたくような音が。
「てめぇ…!!何なんだ…!!」
痛みで脂汗を多量にかきながら、オーレンは吐き捨てるように尋ねた。しかし、それに対する返答は---ない。しかし、足音は確実に近づいてきている。
オーレンの無事な右腕が、ペルセの動きを制するように、眼前に突き出される。しかし、その腕は震えている。手慣れた動作も、今のオーレンにとっては、かなりきついようだ。
「…ゴミにも親子愛ってのがあるのか?泣かせるねぇ…」
その言葉と共に、とうとう煙の中から、一匹の悪魔の男が姿を現した。この場には似つかわしくない、整った格好をしている。体格的には、オーレンよりも少し小柄なくらいか。
男は心底嫌そうに、自身の鼻をつまんでいた。
しかし、その目つきは、完全に侮蔑そのものだ。声色も、こちらを見下している。
「何で…俺らを…襲うんだ…!!」
「…ゴミに答えてやる義理はないが…。あえて言うなら、貴様らは悪魔の恥晒し。消えてもらうのは当然だ」
男は、まるで幼子に常識を教えてるかのような態度で答えた。
消えるのが当然?…そんなの、いきなり言われて、受け入れられるわけがない。子供のペルセであっても、それだけは理解できた。しかし、反論したくても、口も体も言うことを聞かなかった。
「ふ…ふざけん…な…ッ…!!」
オーレンが震える。動けないはずの体を動かそうと、明らかに無理をしているのが分かる。骨の鳴る音が、こちらまで聞こえてきそうだ。
だが---オーレンは、その男の前で、動くことすら許されなかった。
「がっ…!?」
何が起きたか、分からなかった。気づいたときには、生暖かい液体が、ペルセの頬を流れていた。そして---。
「オーレンさん!?」
---オーレンは、その場に倒れてしまった。その背中には、風穴があいている。
言葉が出ない。現実を認識できない。しかし、頬を伝う生暖かさが、これを現実だと否応なしに伝えてくる。
駆け寄りたくても、体は動いてくれない。ただただ、目の前で倒れるオーレンを見つめるしかできなかった。
「…ガキごとやるつもりだったが、体で軌道がズレたか。まぁいい」
呆然としているペルセのことなど気にも留めていない様子で、男はペルセの方に手をかざしてきた。その手には、得体のしれない力が集まっている。
「…ゴミ山のガキ。せめてもの優しさだ。親父と一緒に、葬ってやる」
その声に、優しさなど微塵も感じない。あるのは嫌悪感のみだ。
今、その力を自分にぶつけられたら、間違いなくオーレンも自分も、何ならこのゴミ山そのものが塵と化す。それが直感的に分かるほど、圧倒的な力の差。
そんな恐ろしい代物を弾として躊躇なく放つのに、然程時間を要さなかった。
---死---。
今、この瞬間。それを明確に感じた。死の恐怖。自分はここで死んでしまうのか。
こんな、理不尽な形で。そんなの---
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
全力の、死への拒絶。それが、口をついて出てきた。
その瞬間、空間がゆがむ。辺りに、轟音が鳴り響いた。
辺りを何か異質なものが包んでいる。感じたことのない何か。
明らかに普通ではない。あの小さい小娘の周りの空間で、展開されている。
「な…ッ!?」
そして---男が気づいたときには、自身の放った弾が、ペルセの前ではなく、自分の前で
---炸裂した。
まるで全てを破壊しつくすかの如く起きた、激しい爆発。紅蓮の炎は確実に男の体を焼いた。空を飛ぶ瓦礫は散弾銃のように皮膚を切り裂く。
何より…自身の弾が直撃してしまっては、ただではすまなかった。
「ぐはぁ…!!」
爆発から放り出され、男は地面に叩きつけられる。ゴミ山の住人と言っても違和感がないほどに、ボロボロにされてしまった。
「くそが…」
---屈辱---。
男の中にある感情は、それだけだった。しかし、大きなダメージを負い、ここからさらに戦えるほどの体力は持ち合わせていない。
---だから、この選択は、やむを得ない。
震える腕で、最後の力を振り絞る。
「…くそがッ…!!あんな、ゴミガキなんぞに…!!覚えてろ……!!」
男は誰にも聞いていないであろうその言葉を残し、その場から瞬時に、蜃気楼のように消え去った。




