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日常の壊れた日

その日も、いつも通りの日常だった。

 昨日の宴の後片付けを行い、今日の宴で出す食事を探しに、オーレンと共にそこら中を探して回る---。いつものようにゴミ山に登り、ゴミの中を漁り、収穫物をもってオーレンのもとに向かう。


 ---それだけのはず、だった。


 今日、この時までは。


「うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 突如発生した、異音。ガラクタの金属音とも異なる、甲高い音。


 ---これは、絶叫。何か叫んでいる。


 そう気づくのに、一瞬の時間差を生じた。それほど、現実味のない音だった。


「何だ…!?」


 自分だけではなく、オーレンにも聞こえたようだ。ならば、この音は気のせいではない。

 その直後、地面が激しく揺れた。周りのゴミ山が一部崩れてくるほどの、大きな揺れ。


「うわっ…!?」

「チッ…!!」


 ペルセはバランスを崩し、転びそうになった。転ぶ寸前でオーレンが支えてくれたので、尻餅をつかずに済んだのは幸いだった。


「…あの絶叫、明らかにただ事じゃねぇ…!!」


 オーレンは一瞬、絶叫の聞こえた場所に向かおうとし、一歩を踏み出そうとする。しかし、その歩みは---止まった。その視線が、ペルセに落ちる。


「オーレンさん…?」

「…ペルセ、これは、大人の時間だ。お前はココで待っていろ」

「え、お、オーレンさん!?」


 訳が分からない。ましてや納得なんてできない。そう言い返そうとしたが、オーレンはそれを待つことなく、走り出してしまった。


その間も、激しい地面の揺れは鳴りやまない。さらには、爆発音らしき音も聞こえてくる。明らかにただ事ではない。しかし、何が起きているのかは全く分からなかった。


「なに…!?何なの…!?」


 こんな状況で助けになれない自分が恨めしい。除け者にされてしまったのがもどかしい。


 そして---怖い。


 ここに来たばかりの時にも感じた、その感情。あの時は、迷い込んだも同然な自分を、オーレン含めて、皆迎え入れてくれたから救われた。


 しかし、今は違う。頼れる大人が、近くにいない。オーレンの言葉がなければ、今すぐにでもどこかへ走り出していたに違いない。


 しかし、ペルセは待つことしかできない。どうすればよいのか分からないからだ。


「いや…いや…!!」


 その場にうずくまり、頭を抱えて震える。これが、今の彼女ができる、精一杯の防御手段だった。目からは自然と、大粒の涙がこぼれ落ちた。


 その状況で、勢いよく何かが隣に飛ばされてきた。直撃こそしなかったが、真っすぐに。ゴミの山をかき分けながら、それは地面へとたたきつけられた。


「えっ…」


 何が起きたか分からない。何かが飛んできたことは分かったが、それがどこに落下したかも掴めなかった。


 震える首で、辺りをゆっくりと見回した。そして…自分の左前方に、何か落ちている。ペルセは震える手で涙をぬぐいながら、恐る恐る「ソレ」を観察してみた。


 その物体には、見覚えがあった。見知った角、昨日の宴で自分の頭を撫ででくれた、汚れた無骨な手…。そして、見覚えのある、顔…。


 思わず、息を飲んだ。同時に、昨日の宴の記憶が蘇った。


『すっかり、オマエはペルセの親父だな!!』


 そう言って、笑っていた男の顔。

 その男の体は、動かない。男の体は、もう冷たかった。


「そ…そん…な…!!」


 受け入れがたい現実。あまりに残酷すぎる事象。それが刃となって、ペルセに襲い掛かっていた。


「ねぇ…起きてよ…!ねぇ…!!」


錯乱したように、ペルセは声を張り上げた。それでも返事はない。昨日、下品に笑っていたあの口は、開いたまま。しかし、その口から声はもう聞こえてこない。


 もう、あの笑い声も、二度と聞くことができないのか---。喪失感のあまり、ペルセの体は震え、涙が再びあふれ出す。


「ペルセ!!」

 泣き崩れたペルセの耳に、聞き馴染みのある声が入ってきた。オーレンだ。


 オーレンの方を見ると、彼も傷だらけのようだ。左腕はダランとして力が入っていないようだし、右脚を引きずるようにして歩いている。


「オーレン、さん…そのケガは…!?」


 ペルセの質問に答えることなく、オーレンは焦りと怒りの入り混じったような表情を浮かべていた。オーレンにとっても、悔しいのだろう。仲間を救えなかったことに、後悔が滲んでいるようだった。


「ペルセ…逃げるぞ…!!」

「えっ…!?で、でも…」


 仲間を弔う暇さえ与えてくれない。オーレンはなんて冷酷なのか…と思ったが、焦っているようなオーレンの表情を見て、ペルセは何も言えなくなってしまった。


 オーレンは右手でペルセの手を握り、走り出そうとした。

 例え片足を引きずってでも、無理矢理走る。痛いはずなのに、オーレンは足を止めようとはしなかった。


「何とか…ここから逃げるんだ…!!」


 必死の形相。今のオーレンの様子を表す言葉としては、まさにその言葉が適切だろう。ペルセの手にも、汗がしたたり落ちている。だが、その必死さに反して、オーレンの足は思うように進まない。


「オーレンさん…一回休んで…。痛いんでしょ…?」

「…余計な、心配だ…ッ!!」


 意地を張っているのか、いらぬ心配をかけたくないのか。ペルセにはどちらか分かりかねる。しかしながら、オーレンが足を止めるつもりがないことだけは分かった。

 一歩一歩、ペルセの手を引き、ゆっくりと前へ進んでいく。


 ーーーしかし、その歩みは、間に合わなかった。

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