美味い!ーペルセ、まともな食事に触れるー
町に入ったペルセの視界に入ってきたのは、今までに見たこともないような光景--。
建物も道も清潔であり、行き交う悪魔達も何だか小綺麗な格好をしている。何よりも、ゴミの悪臭が全く漂ってこない。ダスノムとは、何もかもが違った。
ここは、中位悪魔達の住まう町、べリアス---。
「…何ここ?」
そんな街に降り立ったペルセの、最初のリアクションは、これだった。目の前の光景をうまく処理することができず、辺りをしばらくきょろきょろと見回すことしかできなかった。
道行く悪魔達から怪訝な視線を向けられる。だが、そんなことに気を回す余裕はなかった。
「…ぅ、ん…」
そんな状況で、自分の体内から、小さい音が聞こえてきた。
---はっきりと、腹の虫が鳴いている。
何より、まずは食料だ。
食べ物を確保しなければならない。とはいえ、ここはゴミ山とは違う。どこに食料があるかなんて知るわけがない。
そう思っていると、ペルセの鼻で、今まで嗅いだことのない、不思議な匂いを感じた。何の匂いかは分からない。しかし、不思議と食欲が刺激されるような匂いだ。
匂いに釣られるように、自然と体が動く。特に意識はしていないのだが、不思議と足が軽い。時々行き交う悪魔達にぶつかりながらも、歩みを止めることができなかった。
匂いを辿っていくと、そこにあったのは大きな建物---。建物上部に看板が載っているが、何と書いてあるかは分からない。しかし、そんなことはどうでもいい。
ペルセは躊躇なく、その建物の中に入っていった。
建物の中は、それなりの人数の悪魔でにぎわっていた。匂いは、ここの奥の方から漂っている。
ペルセは迷うことなく、その方向へ歩いていく。
---その道中、何だかやたら視線を感じる。あの時の、ダスノムを襲撃してきた悪魔のような、侮蔑的な視線ではない。しかし、気持ちのいい視線ではない。
さらには、自分を見てひそひそ話をする者や、自分を明らかに避けている者もいた。
「…なんなんだろ?」
だが、今のペルセに、その視線や行動の正体は分からない。そんなものを気にするなら、今はともかく、このにおいを出している何かを食べたい。その思いが強かった。
「…ほわぁ…!!」
匂いの源にたどり着いたペルセは、感嘆の声を漏らした。そこにあったのは、パンだった。
ゴミ山でも、時々廃棄されたパンが容器に入れられた状態で見つかることはあった。それと似ているような気もする。だが、こんないい匂いのするパンは、知らない。
普段なら取っていいか、オーレンに確認するところだ。しかし、隣にオーレンはいない。
手掛かりを求めて周りを見ると、二股に分かれた道具を使って、各々好きなパンをとっている。
---それに気づいたときには、すでにペルセの体は動いていた。
「いただきまーす」
次の瞬間には、ペルセはそこにあったパンを手に取り、かぶりついていた。
ほのかに口の中に広がる、今まで感じたことのない幸福感。今まで単独の食事で、こんな感覚を味わったことは一度もなかった。
こんなにも美味しいものがあったのか---。
そう思っていると、周りの空気が一変したのを感じた。
皆、こっちを見ている。先程までの視線とは違い、明らかに異常者を見るような視線だ。なぜ、そんな視線を向けられるのだろうか。
「ちょっとキミ!!何してるの!?」
店の中にいた悪魔に声をかけられ、食べていたパンを取り上げられた。
訳が分からない。皆も取っているではないか。周りとの違いがあるとしたら、素手で取ったことくらいか。
「うっ!?くっさ!!」
声をかけてきた悪魔は、店側の者だろうか。そんなどうでもいいこと考えている間に、悪魔は嫌悪感むき出しで自身の鼻をつまんだ。
…いくら何でも失礼すぎやしないか。これでも、毎日川で体を清めている。ゴミ山では綺麗好きな部類だったくらいなのに。
「…一度、店の裏に来てもらおうか。…こんなのを密室には入れたくない…。シャワーブース借りないと…」
相手がどういうつもりなのかよく分からないまま、ペルセは店の奥側へと連行されていった---。




