エストラの日常
翌日。
今日もエストラでは、日常が繰り広げられている。
昨日の事件がまるで嘘であるかのように、エストラ五年三組は、いつも通りのやかましさを保っていた。
「ねー、今日の放課後、遊びに行かない?」
「え、え〜…今日はちょっと、都合が…」
「なんでー」
クラスの中心で、ミノトが他のクラスメイトと話をしているようだ。
普段ミノトをたしなめる側のダリスが、今日は日直の仕事に行っており、ミノトを止める者がいない。しかもミノトは、相手の都合をあまり考えていないようだ。
ーーーもう、見慣れた光景だ。ペルセは呆れたようにため息をつくと、ミノトに近寄った。
「ミノト」
「あ、ペルセちゃん!」
「向こうが困ってる。またダリスに怒られちゃうよ」
「ふぇ?」
ミノトはペルセにそう諭され、ようやく相手の反応を見たようだった。相変わらず、人の話をあまり聞かずに爆走する子だ。
「ごめんね、ミノトちゃん。私も遊びたいんだけど、今日は習い事がさ…」
「え、あ、そうなの?」
「今度埋め合わせするから」
「しょうがないなー」
言葉に詰まっていた相手が、ようやく言葉を紡げた。それを聞いて、ミノトはようやく納得したように引くことにしたようだ。
ーーーミノトのペースに合わせていては、身が持たない。この二週間ほどて、何度も感じていたことだった。
そんなことを考えていると、ミノトが勢いよくペルセの方へ顔を向けてきた。
「じゃあさ、ペルセちゃんの都合はどう!?」
「私?放課後は無理だよ…?」
「じゃあ週末!この前みたいに遊ぼうよ!!」
ミノトにそう言われ、ペルセは考え込む。
放課後については、今日もイアノと共に帰ることになるだろうから、寄り道などできない。
だが、週末だとまだ分からない。もしかしたら、『昨日の一件』のことで、呼び出しがかかるかもしれない。
無論、本音を言えばミノトと遊びたい。この前のように、ウサギとふれあったり、スイーツを食べたり、プリクラを撮ったりしたい。特にプリクラについては、今もペルセがいつでも見れる場所に、大切に保管している。
「う〜ん…週末も、ちょっと分からないかな…ごめんね、ミノト」
「えー!?ペルセちゃんまでダメなの!?」
だからこそ、こんな半端な断り方しかできなかった。それが、ものすごく歯痒かった。
当然、ミノトは不満そうだ。そんな顔をさせてしまうのも、心苦しい。
だが、断言して後からひっくり返すことをしたくはなかった。
「ペルセちゃぁん…ホントに、何とかならない?」
「やめんか、このバカチン」
「あぎゃん!!」
食い下がろうとするミノトの頭に、戻ってきたダリスのチョップが炸裂した。相変わらず、異性であるにも関わらず、ミノトには容赦がない。
ミノトは頭を抑えながら、ダリスを睨んでいる。だが、当のダリスも悪びれておらず、むしろミノトを見て呆れた様子だ。
「そもそもお前、週明け提出の宿題が、まだ手付かずじゃねぇか。遊んでる場合なのか?」
「…ダイジョウブダヨ」
「目を逸らすな、バカ」
ダリスはそう言いながら、ミノトの顔を鷲掴みにする。ミノトはそれに対し、両腕をバタバタ上下させながら、抗議の声をあげていた。
ーーー穏やかな、五年三組の光景。自分の周りが大変であっても、この光景だけは、崩したくはない。
そう、心に願うのだった。




