ヴァーレアの残酷な宣告
「貴様…!!ラウラじゃないな!?」
「人格を乗っ取りやがったのか…!」
「ずっと、ラウラの中にいたというのか…!!」
二人のやり取りを見たソロモニアの魔術師達が、次々と怒声を上げる。だが、イアノに鎖を引っ張られ、反撃もペルセにかき消されてる無様な姿で凄まれても、何も怖くなかった。
むしろ、ヴァーレアはそんなソロモニアの魔術師達を、鼻で笑った。
「ボクはボクの意志で、ランちゃんのところにいる。それが分からないんじゃ、話にもならないね」
未だに、悪魔を支配する側だと思っているその驕りに、呆れることしかできない。ヴァーレアは大きくため息をついた。
「ヴァーレアさん…大丈夫なんですか?あの人達、ヴァーレアさんを狙ってるんじゃ…」
ペルセが心配そうにこちらを見ている。
自分と同じく、ソロモニアに狙われているペルセに言われるのは、何だか複雑だった。だが、その心を無碍に扱う気もない。ヴァーレアは穏やかに微笑んでみせた。
「大丈夫ですよ。ペルセ様は、後ろで見ててください。ここはボクら姉妹が、ケリをつけますから」
そう言うと、ヴァーレアはゆっくりとイアノの隣へと向かった。
「暴れられても困りますわね。少々、大人しくしていただきますわ」
ヴァーレアが来ることを察知したイアノは、魔術師達の足に引っ掛けていただけの鎖を、魔術師達の体に巻き付けた。
魔術師達は抵抗しようとした。だが、まさに計算ずくの詰め将棋かのごとく、抵抗の動きまでも読んだうえで、魔術師達を完全に拘束してしまった。
「さて…ヴァーレア。この者達に、言いたいことはありますの?」
「言いたいこと、ね。そんなの、山のようにあるけど…」
数百年間。悪魔の基準で見ても、決して短くはない期間だ。
結果的に、ラウラという最高のパートナーと出会い、人間界に残ることを選んだが、それでもこの者達が無理やり、自分を魔界から強制的に誘拐し、魔界への帰路も破壊して帰れなくしたことは間違いない。
それに、この者達のせいで、かつてあった人間界と魔界の交流までもなくなってしまった。人間界で独自の発展を遂げられたことは良いことかもしれないが、それも結果論に過ぎない話だ。
「…キミらの犯した罪は、人間界側の法に照らしても重いよ。ペルセ様をつけ狙い、さらにランちゃんを大人数で襲撃し、誘拐しようとした。…全て、自分達の支配欲を満たすためだけに」
だからこそ、罪を突きつける。イアノと同様に、淡々と。
ソロモニアの魔術師達は、押し黙る。ここで否定するなりなんなりすればよいだろうに、取り繕うことさえしない。やはり、悪魔の力を利用した支配を、悪事だとは思っていないようだ。
「個人的には、キミたちをここで消し飛ばしてしまいたい。それだけの恨みがあるからね。でも、それをやるつもりはない」
「なに…?」
ヴァーレアがそう言うと、ソロモニアの魔術師達は心底訳がわからないという表情を、こちらに向けてくる。
普通なら、報復するところだろう。だが、ヴァーレアがそれをやるべきではない理由があった。
殺してしまえば、ソロモニアと同じ土俵に乗ってしまうだとか、子供であるペルセが見ているだとか、そういった理由ももちろんある。だが、一番の理由は、全く別だった。
本来なら、教えてやる義理はない。だが、自分も鬼ではない。優しく教えてやるとしよう。
そう考え、ゆっくりと口を開いた。
「…もしかしてキミ達、この一件がまだ、エスカン国内、ひいては人間界内部で解決する問題だと思ってないかい?」
その声は、かつてないほど冷たいものだった。




