ヴァーレアからの信頼
「…えげつないね…」
ラウラの精神世界から状況を伺っていたヴァーレアは、思わずそう呟いていた。その言葉を聞けるのは、ラウラだけしかいない。
だが、それでも言わずにはいられなかった。
「そうですね…」
普段から合理的なラウラも、少し引き気味のようだ。
今のイアノは冷静且つ、苛烈。冷たい炎が燃え盛っているかのようだ。
「姉様、昔からこういう一面あるんだよね」
だが、ヴァーレアは知っていた。イアノが今日この瞬間に変わったわけではない。自分やペルセが巻き込まれた、ということもあるだろうが、元からその素質はあったのだ。
それを知ってるからこそ、イアノが次にとるであろう行動も、予想ができた。
「…ランちゃん」
「なんですか?」
「肉体を、貸してくれない?」
「えっ…」
だからこそ、ヴァーレアは肉体の主導権を一時的に請求した。
ラウラの肉体を介し、、ヴァーレアが全面的に前に出るという動作。それ自体は、今までにも何回もやってきたものだ。
「ですが、それを行うと、アナタの存在がソロモニアに…」
「姉様のことだ。おそらく、魔界側における一番の被害者のボクを無視しないと思う」
「ヴァーレア…」
「ましてやボクは妹だ。絶対に聞いてくる」
これは、姉妹として長く見てきたからこその、経験則。理屈も理論もない、ただの推測に過ぎない。
だが、それでもヴァーレアはあえて断言した。イアノなら、自分を絶対に無視しないという確信があった。
普段なら、ロジックを重要視するラウラを相手に、こんな理屈も何もない提案をしても一蹴されるだけだ。
「…わかりました。こればかりは、アナタ達の、姉妹の絆を信じますよ」
だが、ラウラはあっさりと折れた。ヴァーレアが拍子抜けするほどに、あっけなく。
「…深く聞かないの?」
「聞いてどうするんです?アナタが言ってるのは研究ではなく、姉妹のやり取り。ならば、私よりもアナタ自身のほうが、よっぽど理解してるでしょう」
ラウラのその言葉が、なぜだか無性に胸に刺さる。ヴァーレアはしばらく、言葉を発することができなかった。
「…何より、ソロモニアの連中に一番色々言いたいのは…あなたでしょう?」
「…そうだね」
ヴァーレアはそう言いながら、精神世界から出る。ラウラの肉体に、ヴァーレアの意識を宿すために。
銀髪の髪が紫色に染まり、気怠げな目つきは元気な目つきへと変わる。何度も何度も、何ならペルセ達の前でもやったことがある、意識の入れ替わり。
「…ランちゃん…ありがとう」
ヴァーレアはゆっくりと、目を開いた。
精神世界から見ていた時と何ら変わらない、イアノがソロモニアの魔術師達を、魔力鎖を手繰り寄せて引っ張っている光景が広がっている。
「さて、一番の被害者に話を聞こうかと思いましたが…。すでに、準備はできているようですわね、ヴァーレア」
「やっぱり、姉様ならそうすると思ってたよ。姉様みたいに魂の揺らぎなんて見なくても、分かってた」
「さすがですわ」
やはり、イアノの行動は予想通りだった。そして、イアノもヴァーレアの行動を見抜いていたようだ。
ーーー何百年も経つと言うのに、姉妹での息が合いすぎている。我ながら、驚きだ。
ヴァーレアは思わず、小さな笑みをこぼすのだった。




