拘束術式、完全崩壊
イアノの足元に、鎖の欠片が転がっていく。その事実が、余計にソロモニアの魔術師達を絶望させることとなる。
「拘束が、解体された…?」
「あれほど何層にも重ねた術式を、こんな短時間で…!?」
ソロモニアの魔術師達は、ざわめいている。イアノはものの数分の間で、あの複雑な拘束術式を解体してしまったのだ。
「まだだ…!まだ、空間拘束は…!」
「構造は把握しましたわ。ならば、壊し方も自明でしょう」
イアノはそう言いながら、ツカツカと空間に展開されてる術式の境界線へと触れる。ラウラでも構造を理解することはできても、解体はとてもできないレベルの煩雑さだ。
だが、イアノならあり得る。ほんの数分で、あの鎖を解体してしまえたのだ。
鎖は拘束術式の一部であるため、ほとんど構造が変わってない。ならば、イアノが解体できても何ら不思議ではなかった。
「…大きくは違いませんわね」
イアノが静かにそう呟くと、イアノの掌を起点として、ドーム状になっている空間術式に次々と亀裂が走っていく。
「おい!何してるんだ!!」
「こ、拘束術式展開が維持できません!!壊されます!!」
ソロモニアの魔術師達がパニックに陥っている。
自分が同じ立場だったら、同じような反応になってしまうだろう。何せ、数百年かけて必死に改良した術式が、完全に解体されて無力化されていく様を、目の前でまざまざと見せつけられるのだから。
「あなたがたの『底』、掴めましたわ」
その言葉と共に、イアノとペルセを閉じ込めていた牢獄は粉々に砕け散ってしまった。
牢獄の欠片が、まるでガラスのように飛び散り、夕暮れの太陽光を乱反射し、キラキラと光ってるようにも見える。
「こんな、ことが…」
人間界で長年、魔力の運用や活用方法の研究を重ねてきたラウラでさえ、ソロモニアの拘束術式を、解析して破ることはできなかった。
ーーーなのに。このイアノという女は。
ヴァーレアの姉であるこの悪魔は。それを呆気なくやってみせた。
「…敵わないなぁ…あの、分析力は…」
ラウラの頭の中で、ヴァーレアが呟いている。その声には、姉であるイアノへの憧憬すら見えていた。
イアノは未だに、白い魔力を立ち上らせ続けているペルセに近寄った。
「お待たせしましたわ」
「お姉ちゃんスゴいー!!」
ペルセはイアノを見て、無邪気にはしゃいでいる。
ーーーまるで、本当の姉妹のようだ。
「ば…かな…!」
あまりの状況に、ソロモニアの魔術師達の中には、膝を付く者さえいた。
そんな魔術師達の横を、平然とイアノは通り過ぎていく。もはや自分の障害として、認識すらしていないかのようだった。
「…ペルセちゃん」
「んぇ?」
「ラウラさんを、解放してあげてくださいな」
「分かったー!!」
ペルセはイアノにそう言われ、ラウラのもとにテトテトと近寄って来る。
普通なら、大人である自分が何とかして解決するところだろう。だがやはり、ラウラが解析をしてみても、ヴァーレアの力を借りても、イアノのようにあっさりとはいかなかった。
「ラウラ先生!今助けてあげます!!」
ペルセはそう言いながら、自身の白い魔力をその手に宿す。そして、その手をラウラも触れてる空間拘束術式の牢獄に触れた。
その瞬間、ペルセの魔力からまるで拘束術式の魔力が逃げるかのように、術式が勝手にバラバラになっていく。
さらには、ラウラが纏っていた、ヴァーレアとの融合魔力さえも例外ではないようで、ペルセの魔力に触れた瞬間、何もしていないのに勝手に引っ込んでいく。
ーーーまさに、『制圧』。自分の全力の魔力すらも、まるでペルセの魔力を前に、服従させられてしまったかのようだ。
ペルセは不思議そうに、こちらを見つめてくる。それが余計に、ギャップを感じざるを得なかった。




