未知の領域
「…ランちゃん…本当に、やるの?」
「ここから先は、研究でも踏み込んだことのない領域…ですが、抵抗せねば死ぬという状況で、リスクがどうとかなどと考えてる場合でもないでしょう」
「…分かった。でも、危険だと判断したら、ボクも止めるからね」
精神世界から、ヴァーレアが語りかけてくる。
自分とて、不安ではある。完全な未知に踏み込むのだから、当然のこと。
だがそれでも、躊躇いはなかった。これほど信頼できる相棒がいるならば、共に行ける。
ヴァーレアとラウラは、混合魔力の出力をさらに上げ始めた。すると、外観から目に見える影響が出始めた。
「な、なんだ!?」
二人の混合された魔力が、異常な挙動を示し始める。混ざるを通り越して共鳴し始め、さらには翠色の魔力の分厚い膜が、ラウラの体に纏わりつく。
まるで、魔力の衣だ。ラウラの体は、完全に翠色の魔力で覆われてしまう。
ソロモニア側は驚いている。だが、この魔力の挙動には、ラウラ達も驚いていた。
こんな現象は、初めてだ。
「おのれ!!くたばれ、ラウラぁ!!」
焦ったソロモニア側は、魔力弾を乱射してきた。だが、その場で炸裂しているにも関わらず、魔力の衣に阻まれ、ラウラに届くことはなかった。
「この出力ならば…」
爆煙の中、ラウラは拘束されている腕と足に、その魔力を集中させ、力をかける。
拘束術式からは、当然強い抵抗を受ける。だが、その抵抗を上回ったのか、少しずつ鎖が、拘束が体から離れ始めていた。
「バカな…拘束が、外れかかっています!!」
「何ぃぃ!?」
影に隠れていたであろう、拘束術式を維持している魔術師達から、声が聞こえてくる。
あの時は構造を分析し、弱点を突いて拘束を破った。だが、今は違う。拘束を力ずくで外しているのだ。拘束術式を組んだ側としては、最も嫌な破られ方であろう。
「抑え込め!!あんな裏切者に負けるんじゃない!!」
「し、しかし…内側から押される力が、想定以上です!!」
ラウラが魔力を流して押し続けると、拘束が緩み、抜けられるだけの隙間を確保できた。
今が絶好のチャンスだ。
ラウラはその隙を見逃すことなく、拘束から抜け出した。
「…これは、想定以上ですね」
「入力に対して、出力がまるで見合っていないよ…」
あまりにもおかしい挙動。ラウラ達にとっても完全に、未知の振る舞いだった。
しかもヴァーレアの言う通り、入れた量に対しての質量が、全く違う。本来なら成り立つ収支が、完全に崩壊している。
こんな現場でなければ、じっくりと測定して、三徹も覚悟で研究に没頭するところであろう。
だが、目の前に広がる状況は、それどころではない。
「バカな…!!拘束から抜けられたぞ!!」
「落ち着け!拘束を外されただけだ!!まだ、この牢獄には閉じ込められている!!」
ーーーそう。縛られてないだけで、牢獄にいるような状況には変わりない。まだ突破などはできていないのだ。
ラウラは突破しようと、空間の境目に手を触れようとした。ところがーーー。
「させるかよ!!」
何もない空間から、大量の魔力弾が降ってくる。いかに魔力の衣で防御できていたとはいえ、無限ではないはず。回避可能ならば、回避した方がよい。ラウラはそう判断し、何とかその魔力弾をかわした。
何とかして空間から出なければ。すでに、だいぶ時間が経ってしまっている。ペルセとイアノに、いらない心配をかけてしまうだろう。
一刻も早く、帰らないとならないと言うのに。ソロモニアの連中は、牢獄へ触れることを許さなかった。
ーーー捨て身でやるのもやむなしなのか。
攻撃をかわしながら、そんなことを考え始める。
そんな時だった。
「女性一人を相手に、大の男が大人げないですわね」
空気を切り裂くような、冷徹な令嬢の声が響き渡った。




