ヴァーレアの誤魔化し
「せ、先生…!?」
いきなり現れたラウラに、ミノトが驚きの声をあげる。
今は昼休み。基本的にラウラは職員室で仕事をしている時間帯のはずだ。だが、目の前にはラウラがいる。
ーーー否。いつもの銀髪が薄い紫色に染まっているし、普段の猫のような気怠げな目つきは、まるで無邪気な子供のように開かれている。
「ヴァーレア…さん…」
「え?」
見た目こそほぼラウラだが、中身は完全にヴァーレアに入れ替わっている。留学の初日に一度だけ見た、ラウラの肉体を借りて表に出てきた時の姿だった。
あまりに印象が変わりすぎてて、わずかな時間だったのにも関わらず、その時の衝撃が頭に残っていた。
「え、ヴァーレア先生!?何で小学部に!?」
「えぇ!?ラウラ先生じゃないの!?」
ダリスとミノトが大きな声をあげる。
ヴァーレアは小学部での授業を持っておらず、高等部以上で難しめの講義を担当している、とラウラから聞いたことがあった。
ダリスとミノトは驚いたようだが、そんな二人を気にすることなく、ヴァーレアはケラケラと笑っている。
「それで、何を話していたんだい?」
ヴァーレアがそう聞くと、ミノトとダリスは少し気まずそうに顔を見合わせた。普通に話していたら、いきなり大人に声をかけられたのだ、ペルセも同じことを両親からされたらドキッとするであろう。
そのためか、ミノトとダリスは、ヴァーレアの質問に答えようとはしなかった。
「あの、イアノお姉ちゃんのことについて…」
「…あぁ〜…」
ペルセが答えると、ヴァーレアは納得したような反応をした。
「ボクの、実の姉だよ」
ヴァーレアが軽く言ったその一言が、ミノトの興味を強く惹いたようだ。ミノトはものすごい勢いで、ヴァーレアの方へ体ごと向けた。
「え、えーっ!?ヴァーレア先生のお姉さんなんですか!?」
「そだよ。でも、これ以上は言えない」
ヴァーレアはそれだけ答えた。
だが、こんな言い方をされて、好奇心の塊のような存在であるミノトが止まるわけがない。そんなことは、ペルセにも予想ができた。
「な、何でですか!?」
「魔界のご令嬢には、色々と面倒くさい規定があったりするんだよ…」
案の定、ミノトは納得できずにヴァーレアへと噛み付いた。それに対し、ヴァーレアは何とか煙に巻こうとしていることが、ペルセにも伝わってきた。
だが、そんなミノトの肩へ、ダリスが軽く手を添えている。その表情は、かなり険しかった。
「ミノト…。お嬢様ご本人が言ってるんだぞ」
「え?お嬢様はイアノさんじゃないの?」
「…ホントにお前は相手の話を聞いてねぇな」
すっとぼけたような態度をとるミノトに、ダリスは大きくため息をついた。
「ヴァーレア先生は、イアノさんが自分の姉だと言ったんだぞ?つーことは、ヴァーレア先生も、だろうが」
「え?…あーーーっ!?」
「俺等には分からん色んなもんがあるんだろ」
ダリスに言われて、ようやく気付いたようだ。その反応を見て、ヴァーレアはホッとしたように一息をついた。
「そういうこと。ボクらの、特に魔界から来てる姉様については、あまり深く探るのはやめてね」
ヴァーレアはそれだけ言うと、そのまま教室から出ていった。ミノト達は、その様子を見つめているだけだった。
ーーー正直、かなり助かった。
ソロモニアの件について言うわけにもいかなかったし、ミノト達を巻き込むつもりもなかった。ヴァーレアが来てくれなければ、うまく誤魔化せなかっただろう。
「…何か、すごい人だったんだなぁ…」
ミノトが小さく呟く。その横で、ダリスが頭を抱えている。
やはり、ミノトはしっかりとは理解しているようには見えない。だが、今回ヴァーレアが口を挟んだことで、誤魔化し方は分かった気がする。
ーーー次に同じこと聞かれたら、ヴァーレアのように煙に巻こう。ペルセは、そう決心するのだった。




