イアノへの挨拶と周りの反応
次の授業は、別の棟の教室で行われる。そのため、渡り廊下を渡る必要があった。
渡り廊下に出ると、この一週間で何度か見た光景が広がっている。
しっかりしたフェンスはあるが、メッシュ状になっており、そこから穏やかな風が吹き込んでくる。
ペルセ達と同じように、移動教室で別の教室に向かっている他の生徒達ともすれ違ったり、後ろから追い抜かれたりしていた。
「…いい雰囲気だよね、この廊下」
風で髪を揺らされる。ペルセは静かに、髪をかき上げながら、辺りを見る。
ミノトやダリスはこの光景に見慣れてしまったために、何も思ってないのだろう。だが、まだエストラに来てから一週間しか経たないペルセにとっては、まだ新鮮な光景だった。
「…ペルセちゃんって、結構芸術的っていうか、何か変なこと言うよね」
「変なこととか言うんじゃねぇバカ。まだ慣れてねぇんだし、別にいいじゃねぇか」
「そういうもの?」
ペルセの何気ない呟きを、ミノトとダリスが拾う。二人の反応が、見事に真逆だった。
すると、校舎の陰から一つの人影が現れる。それは、黒いドレスを身にまとった、ペルセのよく知る黒髪の女性、イアノだった。
「え、おいあの人…」
「ここ数日、ずっと校内にいるっていう、噂の…」
「わー…すごい綺麗な人…」
イアノが姿を表すと、周りがざわざわしだした。
確かに、学校の中では、あの格好はかなり目立つ。イアノが普段から着てるあのドレスは、相当高級なものだと聞いている。また、本人の所作や振る舞いも、周りから見たらかなり上品に洗練されたものに見えるらしい。
だが、そんなことなど、ペルセにとってはどうでもよかった。柵越しに見えるイアノに、大きな声で呼びかけた。
「イアノお姉ちゃーん!おーい!!」
ペルセが手を振って名前を呼ぶと、それに気付いたのか、イアノも穏やかな笑みを浮かべ、こちらを向いてきた。
そして、ペルセに応えるように、イアノも手を振り返している。
それを見た周りの生徒たち、ミノトとダリスも驚いたようにペルセへ視線を向けてきた。
二人の間には物理的な距離があるため、会話することは難しい。そのため、軽く手を振り合うだけで終えることにした。
しばらくイアノの穏やかそうな顔を見つめたあと、ペルセは呆然としてるミノトとダリスに駆け寄った。
「二人とも行こ!」
ペルセは普通に声をかけたつもりだった。だが、ミノトならまだしも、ダリスですら唖然としたままだった。
周りも未だ、こちらを見てザワザワしている。
何でだろう。ペルセには、全く心当たりがなかった。
「…あとで色々聞かせてもらうからな、ペルセ」
「あの人との関係、聞かせてよ!」
ーーー何だか、二人が怖い。ミノトに至っては、ペルセの肩を掴んで、鼻息を荒くしながらこちらへ迫ってきていた。
見知った顔があったから声をかけただけなのに、周りもなぜこんなに騒ぐのだろうか。
ペルセは首を傾げることしかできなかった。




