ゴエティフス家ご令嬢による、不意打ち対処術
悪意をむき出しにした生体反応は、少しずつ近づいてきている。距離が縮まるにつれ、正確な情報が見えてきた。
敵は三人。全員男のようだ。断片的に、相手の内側から聞こえてくる声から推測するに、ずっとペルセの周りにいて、牽制してきている自分が邪魔だから、可能なら消そうとしてる、と言ったところだろうか。
当人達は隠せてるつもりだろうが、魂魄が見える自分が相手では、内心で強い感情を抱いてる限り無意味だ。
「…さて…ソロモニア、でしたっけ?先遣隊の実力、拝見させていただきましょうか」
イアノはそう言うと、ペルセのいる棟から少し離れるように動いた。すると、相手もイアノを見失わぬように、かつイアノからは姿を見られないように動いている。
とはいえ、あまり離れすぎると、今度はペルセの護衛任務に支障が出てしまう。中庭を出たイアノは、ペルセがいる棟から数メートルほど離れた場所にある、各部ごとの部室が集まったプレハブ小屋の方へと向かう。
敵の動きを見ると、やはりイアノから隠れるように動き続けている。魂魄からは、「奇襲」という言葉が聞こえてくるあたり、不意打ちをしかけて、一気に始末するつもりなのだろう。
ーーーよりによって、学校でそれを行おうとするとは。だが、ペルセを狙った時も校内でやった、という話であったので、あり得なくはない。
とはいえ、時間は限られている。あまりおちょくってもいられない。
イアノはゆっくりと振り向いた。
「…さて、そこのお三方。何か、私に御用ですか?」
笑顔で声をかけると、その瞬間、魂魄に大きな揺らぎが生じた。明らかに動揺しているのが伝わってくる。
だが、男達は出てこない。もしや自分達のことではないと思ってるのだろうか。
ならば、もっと条件を絞る必要がありそうだ。
「…先程から私の後を追ってるようですが、それで私に用事がない、等ということはございませんわよね?」
追い討ちをかけるように言葉を紡ぐ。すると、ますます動揺が伝わってくる。
イアノが無言で見つめ続けていると、物陰から三人の男達が出てきた。全員、用務員や事務員の格好をしており、いつも仕事で愛用している黒いドレスで来ている自分よりも、学校では目立たないであろう。
「…なぜ、気付いた…!?」
「私の前で、陳腐な変装など通じませんわ。それだけの敵意を持って近付かれては、特に探りを入れずともバレバレですの」
狼狽している相手に、イアノは親切に教えてやった。
自分は能力を使って感知していたが、仮に能力がなかったとしても、貴族社会を生き抜いてきた令嬢ならば、あれほどの強い敵意を拾わないわけがないだろう。そのくらい、分かりやすかった。
「それで、何か御用ですか?」
「いや…それは…!」
話そうとしない相手に、イアノはツカツカと近寄る。
要件があるならさっさと話せば良いものを。動揺するあまり、そこまで思考が回っていないようだ。
これは、こちらから答えを促しても、返ってこない。そう判断したイアノは男達の眼前にまで近寄ると、背伸びをし、一人の男の耳元で優しく呟いた。
「あなたがたの目的は、分かっていますわよ。…ソロモニアの組員さん」
そう言いながら、その男の奥にある魂魄を、鷲掴みにした。




