動き出したソロモニア
イアノがペルセの護衛についてから、数日が経った。今日も、ペルセはエストラで授業を受けている。
学校の授業。存在は知っているが、見るのは初めてだ。ペルセがいる校舎の外から、授業の様子を眺める。
思えば、自分もゴエティフス家の後継者として、妹のヴァーレアと共に、専属の家庭教師複数人からの英才教育を受けてきただけで、学校の授業形式での教育は受けたことがない。
それを、子供のペルセが体験できてる。その事実に、思わず頬が緩んでしまう。
まだ授業が終わるまで時間はある。イアノはペルセのいる棟から離れないようにしつつも、エストラの敷地内をゆっくりと歩いていた。
イアノは校内の中庭へと向かう。ほどよく緑があり、木陰の下にはのんびりできそうな木製の椅子が複数設置されている。
ここ数日、ペルセを待っている間の待機場所の一つとして気に入った場所の中庭だ。イアノは椅子に腰掛けると、自身の魔力を使った転送術で、本を手元へワープさせてくる。
「ふぅ…」
一息つくと、イアノは本を読み始める。
魔界にある自分の住まいや、職場で読んでても全然落ち着くのだが、ここでの読書は何だか、違った方向で落ち着くことができる。
もちろん、ペルセの護衛というデメナ直々の使命は忘れていないが、もしプライベートで来れたなら、肩肘抜いて読書できただろう。
それだけに、少し残念だった。
穏やかな風が、イアノの髪を揺らす。木の葉の隙間から、時折太陽の光が差し込んできていた。魔界では見られない明るさだ。
「…おい、あの人今日もいるぞ」
「綺麗なお姉さんだ…」
通りがかった学生の話し声が聞こえてくる。
声色からすると、大学生くらいの男達だろうか。
あまりチヤホヤされるのは好きではない。だが、気にするほどでもないため、イアノは特に反応しないことにした。
「お前、声かけてこいよ」
「無理だよ…高嶺の花すぎる…」
「ヘタレ」
「うるせぇ!」
男子学生達はしばらくイアノの近くでヒソヒソ話をした後、その場から言い合いをしながら離れていった。
魔界の社交界にも、ああいう下世話な話をする名家の息子はいた。そのため、然程気にもならなかった。
「…どこの世界にも、ああいう男はいるものですわね」
特段、怒りも不快感もない。自分は何もしていないのだから。
イアノは静かにページを捲り、本の内容へと意識を戻そうとした。
ーーーだが、その男子学生たちが向かっている先。イアノの感知能力に引っかかる、強い負の感情が範囲内へと侵入してきた。
相手の魂の揺らぎから、その感情が悪意であることが聞き取れる。まだ遠くであるため、それ以上のことを読み取ることはできなかった。
しかしながら、その感情はあろうことか、自分の方へと向けられている。
もしや、自分の存在をも勘づいたのか。特に存在を隠してなかったので、感知されるのも時間の問題だとは思っていたが、学校の中で狙ってくるというのか。
イアノは静かに本を閉じ、元の場所へと転送し直した。これは、明らかに自分が相手取らなければならない相手だ。そう判断し、イアノは静かに立ち上がった。




