今後の方針決定
「…ひとまず、最優先はベルセちゃんの安全確保ですわね」
イアノはお茶を静かに飲みながら呟いた。やけに、落ち着いている。
イアノのその言葉に、ラウラは大きく頷いた。
「えぇ…。ですが、相手はすでに、校舎の内部にすら入り込んできています。今回は単独でしたが、次回も単独で来るのかどうかは…」
確かに、あの時ペルセが感じた悪意は、一人分のものだった。それゆえ、対処がしやすかった。
しかし、話を聞いてる限り、ソロモニアは組織だ。一気に複数人がかりで襲ってきたとしてもおかしくはない。
そうなった場合、今回のような自力での時間稼ぎができるかは、正直分からなかった。
「しかし、私もエストラの職員としての職務がある以上、常に側にいれるわけではありません。今回も、ペルセさんから連絡受けてから、数分程度のラグが発生しましたし」
「そのために、私が魔界から派遣されたのですわ」
真剣な顔で呟くラウラを相手に、イアノは小さく笑う。そこには、余裕さえ見えている。
「私がエストラ校内、ひいてはラウラさんがこの子の側にいられない時に、近くに私がつきますわ」
「イアノお姉ちゃん…」
イアノはペルセの頭をそっと撫でる。
イアノが来てくれるのは心強い。だが、イアノは折角の人間界を一切楽しむことができなくなる。
ーーーどうせなら、イアノとも人間界で遊びたい。ミノトに教えてもらったふれあい施設や、スイーツ屋での食事など、魔界ではできない経験をさせたい。
頭では分かっている。イアノは仕事で、しかも母デメナから直接依頼を受けて来ている。遊んでる場合ではないことも。
ペルセはワガママを言いたい気持ちを、ぐっと堪えた。
「ペルセちゃん。もし何か怖い人や、不審な感情が『聞こえてきたら』、迷わず私に連絡くださいね。私、姿は隠してるかもしれませんが、近くにはおりますので」
「…うん。でも多分、イアノお姉ちゃんも気付けるよね?」
「気づけると思いますが、最も緻密に聞こえるのは、感情を向けられてる当人…この場合はアナタ自身ですわ」
「…分かった」
ペルセよりも感知能力が高いイアノに言われてしまっては、否定のしようがない。素直に引き下げることにした。
「…あのぉ、姉様」
「はい?」
「魂魄の揺らぎを観測できる者にしか分からない話は、後にしてもらえるかな?」
ヴァーレアが戸惑ったように声をかけてくる。それに対し、イアノは不思議そうに首を傾げるだけだった。
「…まぁいいや。とりあえず、学長には話を通しておこうか、ランちゃん」
「…えぇ。姿を隠してるにしても、ヴァーレアの姉が来るとなると、学長も大騒ぎでしょうね」
「やめて…。何かボクの立ち位置がおかしくなる」
「ゴエティフス家のご令嬢、というだけですでに恐ろしいので大丈夫ですよ」
「何一つとして安心要素がないよ!?」
二人がいつもの調子に戻る。なんだか、一気に肩の力が抜けてしまう。
昔、とんでもなく重い過去を抱えていたであろう二人も、今では子供である自分の前で仲の良いやり取りを繰り広げてる。子供である自分にはまだ全ては理解できないが、それだけで十分な気がする。
ーーー明日も、学校には行ける。イアノもいるなら、そこまでの心配はいらない。
ペルセは安心して、そんな二人を眺めていた。




