ラウラの過去⑫ ヴァーレアとの契約
「…勝手なことやって、ごめんね。二人とも助かる手段は、これしか思いつかなかったんだ」
申し訳なさそうなヴァーレアの声だ。だが、辺りを見回しても、ヴァーレアの姿はない。
一体、何が起きたのか。その説明がとにかく欲しい。
「エロイム・エッサイム…悪魔召喚の呪文だけど、あれは同時に、召喚した悪魔と契約を結ぶ呪文でもあるんだ」
「契約って…!?」
通常、悪魔との契約は人間側から持ちかけて結ぶものだ。悪魔側から契約を申し出るケースなど、ほとんど耳にしたことがない。
そんなことを思いながらラウラが混乱していても、ヴァーレアの説明は続いた。
「これでラウラ、キミはボクの魔力も借りて…何なら混ぜ合わせて戦うことができるようになった。ボクの魔力は、君も一度見たことがあるだろう?」
そう言われると、ぐうの音も出せない。
一ヶ月前、拘束術式で縛られながらも抵抗し続け、王宮を半壊させた、あの巨大すぎる魔力。
ーーー明らかに自分の器では不釣り合いなほどのあの凶悪な魔力を、自分が使うのか。
少し自分の体で魔力を練ると、今までとは比較にならないレベルの魔力が溢れ出てくる。思わず、ビビってしまう。しかも、その魔力の質も、ただ混ざったと言うにはおかしなものだった。
「…ヴァーレア。あなた何をしたんです?」
明らかに、ただ混ざっただけでは説明がつかない。単純な混合魔力とは違っており、明らかに魔力層の境界が曖昧だ。
だが、ヴァーレアも予想外だったようで、驚きの声を出し始めた。
「うそ…こんなこと、あるんだ…」
「…まぁ、それはあとで考えるとしましょう」
「そうだね…」
ラウラは会話を切り上げると、未だにヴァーレアを探し求めるソロモニアの魔術師と、自分を拘束しようとするドゥローラ兵士達へ視線を向ける。
ーーー今なら勝てる。そんな気がしていた。
ラウラは自身の体から魔力を練り上げ、ボールサイズの球として魔力弾を作り出した。
「…無益な戦闘はしたくありません。三十秒、時間をあげますので、私達から手を引きなさい」
「あぁ!?」
ラウラが最後の温情としての忠告をするも、ドゥローラ兵士達は逆にメンチを切ってくるだけだった。どうやら、退く気は一ミリもないようだ。
「テメェは国王様の命に、明確に逆らい、国家兵器を奪った反逆者だ…!そんな奴を相手に退けだと!?国の秩序のためにも、貴様は囚われなければならん!!」
「ソロモニアとしても、アナタは折角我々が提供した技術で召喚し、国家に捧げようとした悪魔を横取りした大罪人。退くわけないでしょうが」
ーーーどちらの言い分も、聞くだけムダだった。
あくまで、ヴァーレアのことを『戦略兵器用の奴隷』としてしか見ておらず、ヴァーレアの『本人の意思』は完全にないものとしている。
「…そうですか」
「大人しく、捕まりやがれ!!」
そう言うと、ドゥローラの兵士が前衛に、ソロモニアの魔術師が後衛に回る。どうやら、魔術師は魔力弾による援護をするつもりらしい。
話し合いの余地は、もうどこにもない。
ラウラは自身で練り上げた魔力弾を、軽く放り投げる。弾は緩やかな弧を描き、ドゥローラ兵士の中へと入り込んだ。
「あん?何だこれは…!」
兵士たちの言葉は、それを最後に爆発音と共に途切れてしまうのだった。




