ラウラの過去⑪ 裏の手
もう間もなく、ドゥローラとの国境を越えられる。そう思いながら、ラウラ達は歩いていた。
あと少し、あと少し歩けばエスカンへと入国ができる。ようやく、この旅に終わりが見えていた。
「あと、もう少しです」
「うぇ〜…やっとぉ〜…?」
ボロボロになったローブを纏いながら、二人は歩いていた。土埃の混ざった風が、その体を撫でていく。
すっかり、その風を浴びることにも慣れてしまった。
ヴァーレアも文句を言いながら、ラウラの後をついてきている。この一ヶ月の間に、二人の仲は大分良くなっており、物理的な距離もすっかり近付いていた。
「最後まで気を抜かないように。この一ヶ月、何度使者に襲われたか分かりませんからね」
「分かってるよぅ…」
ラウラは警戒を解くことなく、エスカンとの国境へと確実に歩みを進めようとした。
ーーーだが、その瞬間だった。
ラウラの進もうとしていた道が、大爆発を起こしたのは。
辺りに土煙が舞う。あと数歩前に進んでいたら、自分の体が五体満足では済まなかったであろう。危なかった。
だが、おかしい。魔力による爆発なのであれば、ラウラにも感知できたはずだ。しかし、先ほどの爆発は、ラウラにも感知できなかった。
そうなってくると、可能性として考えられるのは、普通の対人地雷だった。
ーーーもしそうなら、自分達の動きが最初から読まれていた可能性がある。予想が正しければ、どこからかは分からないが、途中からドゥローラの掌の上に乗っていた、ということになってしまう。
「いたぞ!!ラウラだ!!」
「逃さねぇよ、この裏切者が!!」
爆発音で気付かれたのか、その周りにドゥローラ兵士と、ソロモニアの団員達がゾロゾロと集まってくる。その数は、今まで追っ手として来ていた使者の数とは比較にならないほどの人数だ。
ここまで来て、終わってしまうのか。この人数相手では、ヴァーレアを庇いながら逃げるのも簡単ではない。
だが、ただでやられるつもりもない。ラウラは掌に、自身の魔力を集中させる。いつものように、周囲の兵士達を撹乱させる術式を展開する。
だが、人数が多すぎる。一部は効力を示したが、死角からラウラへ魔力弾を飛ばされる。そのせいで、全員を撹乱し切ることができない。
「くっ…!!うざったい…!!」
回避に専念しながら、ヴァーレアの方へ目を向けると、ヴァーレアの前にソロモニアの魔術師達が立っている。魔術師達は何か唱えていた。
「まさか…!!」
その詠唱には、聞き覚えがあった。あの時、ヴァーレアを拘束していた術式だ。ラウラが動き始めた時には、すでに鎖が出始めていた。
だが、ヴァーレアは不自然に落ち着いていた。
否。落ち着いていたというよりは、腹を括っていたという方が正しい。そんな表情をしている。
「…やりたくはなかった。でも、これしかなさそうだね」
「なっ…!?なにを…!?」
ヴァーレアは魔力を練り上げる。だが、その魔力は相手には向いておらず、駆け寄ってくるラウラの方に向いている。
一体、何をするつもりなのか。ヴァーレアの考えてることが分からない。
「…エロイム・エッサイム…ヴァーレア=ラウラ、オーダー…」
「なっ!?」
ヴァーレアは小さい声で呟いている。その言葉を、ラウラは古い魔導書で見たことがあった。だがその呪文は、人間が悪魔を召喚する際の、最も古典的な術式の一つだ。
しかし、ヴァーレアは悪魔だ。もしや悪魔が悪魔を呼び出すとでも言うのか。
ヴァーレアの体が次第に、怪しげな色の魔力で覆われていく。一体、何が起きているのか。
それと同時にヴァーレアの魔力が、ラウラの体内へと侵入していく感触があった。
「こ、これは…!?」
「ラウラ…キミを、ボクの契約主…ううん、マスターだと、認めるよ」
ヴァーレアがそう言うと、本人の体がバラバラとなり、ラウラの方へ一挙に粒子が集まってくる。しかも、その粒子はラウラの体内へと、抵抗なく取り込まれていく。
先程までヴァーレアがいた場所に、鎖が突き刺さる。だが、もうそこにヴァーレアの姿はない。
「な…!?あの悪魔、どこにいきやがった!?」
ソロモニア側も、混乱し始めた。だが、ラウラとてそれは同じだった。
どこへ行ってしまったのか。あちこち見回していると、ラウラの頭の中に、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。




